あかるい職場応援団
厚生労働省

社内でパワハラ発生! 人事担当の方他の企業はどうしてる?

【第6回】
企業理念と寄り添ったパワハラ対策 ― ユニ・チャーム株式会社

グローバル人事総務本部 人事グループ 渡辺幸成

国内4,000人、海外16,000人、グループ連結でおよそ20,000人の従業員が世界約80カ国・地域で事業活動を行うユニ・チャーム株式会社。1961年の創業以来、ベビー用紙おむつ、大人用紙おむつ、生理用ナプキン、一般ウェットティッシュなどで、進出するあらゆるマーケットでNO.1の座を獲得してきた日本を代表するグローバル企業の1つです。その強靭なチャレンジ精神の源になっているのが、企業理念「NOLA & DOLA」(Necessity of Life with Activities & Dreams of Life with Activities)【生活者がさまざま負担から開放されるよう、人々の心と体をやさしくサポートする商品を提供し、一人ひとりの夢をかなえるために力を尽くし続けていきます】 の実践。「NOLA & DOLA」には、「赤ちゃんからお年寄りまで、生活者がさまざまな負担から解放されるよう、心と体をやさしくサポートする商品を提供し、一人ひとりの夢を叶えたい」というユニチャームグループの想いが込められています。ユニ・チャームのパワハラ対策について、グローバル人事総務本部 人事グループマネジャーの渡辺幸成さんにお話をうかがいました。

3つの人事理念

――社員全員が、同じ手帳を持って行動している

ユニ・チャームでは全社員がA5サイズの手帳を持っています。この手帳の中に社是から行動指針まで、私たちユニ・チャームの全ての想いが入っています。我が社のパワハラ対策について語るには、まずこの手帳に記載されている「人事理念」からお話させていただければと思います。

ユニ・チャームグループは、"信念と誓い"と企業行動原則に基づいて、社員一人ひとりの自主性を重んじ、公平な自己実現の場の提供と、「自信」と「誇り」が獲得できる企業文化の醸成に努めています。それを実現するための具体的な人事理念が3つあります。1つ目は、「成長と創造」。私たちは多様な価値観を認め合うとともに、多様な価値観が変化を創造することを認識した上で、一人ひとりの価値をさらに高めていきたいと考えています。意欲を持つものには、互いに成長の機会を提供し合い、また成長の成果を発揮する機会を自ら創出します。2つ目は「組織と個人」。私たちは志を同じくするものが、互いに力を引き出しあい、共に将来のビジョンを創造し、全体が成長する喜びを共有します。市場原理を1つの基本原理として、組織と個人の新たな共生、更なる発展を追求していきます。3つ目が「人間観」です。人間観とは、私たちがお互い自立した個であることを認め、その自由と自己責任のもとでの一人ひとりの自発性を尊重していこうという考え方です。私たちは互いが、自身の使命と役割を理解し、自ら思考・行動する、主体的・能動的な存在であると認識しています。

グローバル人事総務本部 人事グループ 渡辺幸成 氏

グローバル人事総務本部
人事グループ 渡辺幸成 氏

「社員への誓い」の実現のために

手帳

手帳

この手帳には社員がやるべきこと、守るべきことだけではなくて、企業が社員に対して行う「社員への誓い」が書かれています。これは他の企業にはないユニークなポイントだと思います。ユニ・チャームは「企業が成長発展するためには、その構成員である一人ひとりの人間としての成長発展が根本であり、だからこそ経営上のもっとも重要な課題として人材育成が位置づけられる」と人事理念に明記しています。そして、人材育成のための各種制度を整備・運用するとともに、優先順位や付加価値の高い課題に時間と行動を集中し、もっとも大切な“時間”という資源の使い方を見直して、一人ひとりの人生をより豊かに、より幸福に過ごせるように配慮しています。これがユニ・チャームの「社員への誓い」であり、ここに企業理念である「NOLA & DOLA」の精神が反映されています。手帳に記載された「ユニ・チャーム行動指針」では、この誓いの実現のために、人種・宗教・性別・年齢・家系・身体障害などによる差別は一切しない、児童労働・強制労働の排除、セクシャルハラスメント・パワーハラスメントの禁止、職場の安全・衛生管理の徹底などを明文化しています。今回のテーマであるパワーハラスメントの禁止は、社員への誓いの1つとして、きちんと行動指針に盛り込まれています。

自社で「パワーハラスメントの禁止」を規定

どこまでが指導で、どこからがパワーハラスメントかという点はとても曖昧であるのが現状です。受け手が負担に思うかどうかという主観的な要素もパワーハラスメントになる、ならないを左右します。また、各部署や業務内容によっても業務の現場で起こる事例には様々な場合が考えられます。そこで社内でも他のハラスメントに並行してパワーハラスメント問題への取組を順次行っていくようになりました。グローバル人事総務本部ではパワーハラスメントを、どう定義すればいいかを専門家のアドバイスを受けながらまとめ、その定義を他のハラスメントとともに行動指針に明記しました。「職権などのパワーを背景にして、本来の業務の範囲を超えて、継続的に人格と尊厳を傷つける言動を行い、社員の働く環境を悪化させ、あるいは雇用不安を与えるような行為はいたしません。」この指針を社員が身につけられるように指導するのが、私たちの基本的なパワーハラスメント対策です。

パワーハラスメントをマネジメントするプログラム

基本的なパワーハラスメント対策の一環として、定期的にパワーハラスメント研修を行っています。対象は①入社4~5年目の若手、②管理職、③部署単位(課長と4~5人のスタッフでの少人数の定期ミーティング)です。プログラムは同じですが、一朝一夕に理解・改善できるテーマではないだけに、同期や同職という各世代の役職のくくりだけでなく、部署単位でも行うことで、しっかり組織に浸透させていくことを狙っています。研修は、なぜパワーハラスメントは増加するのか?という原因と背景をきちんと理解することから始めます。パワーハラスメントの原因には、従来の終身雇用、年功序列から、能力主義、成果主義への移行が影響していると考えています。また職場のリストラや、時代変化のスピード化とIT機器などの急速な発展が挙げられます。さらに近頃はコミュニケーション能力が不足している社員が増える傾向にあります。コミュニケーション能力というより、叱られる経験・挫折経験の少ない社員の増加と言った方がわかりやすいかもしれません。そういう社員が、上司とそりが合わなくなったときは要注意ですね。もちろん世代の違いや、正社員、契約社員、パート社員、派遣社員などの雇用形態の多様化もパワーハラスメントにつながる可能性があります。これらの原因や背景をしっかりと社員に認識させることで、自分たちが置かれた状況を客観的な視点で捉えることができると考えています。視点を高くすれば、ものごとの本質がわかり、二進も三進もいかない状況をある程度うまく打破することができます。

原因と背景が飲み込めたら判断基準を伝えます

パワーハラスメントの判断基準も規定しました。判断基準がなければ一人ひとりが自主的にパワーハラスメントに対処することができないと考えたからです。その基準とは「パワハラとなるか否かは、業務上必要な指導の範囲を超えた【いやがらせ行為】であるかどうかがポイントとなり、その行為に業務上の正当性があったかどうかが争点となります」というもの。 たとえば具体的な事例とその判断として①クビ(解雇)にするぞ!と脅す。解雇されるほどの理由が無いにも関わらず「お前なんかいつでもクビにできる」というような言葉で半ば強制的に従わせようとする行為はパワーハラスメントと判断します。②必要以上にミスを追求する。些細なミスにも関わらず必要以上に怒鳴りつけたり、他の社員の面前で指摘を繰り返すことはパワーハラスメントです。③残業を強要する。とても終わりそうにない残業を押し付けたり、サービス残業を強制的に行わせるのも典型的な例でしょう。④無視する・仕事を与えない、⑤プライベートな飲み会への参加、飲酒の強要もパワーハラスメントにあたります。これらを具体的事例として研修を行い繰り返し説明しています。さらにパワーハラスメントチェックリストを用意し、パワーハラスメントに当たりうる行為及びパワーハラスメントを起こす可能性のある心理状態がないか確認しています。チェック項目は15ほどあるのですが、ここでいくつかご紹介しましょう。

部下を立たせたままでよく説教をしたことがある
部下の人間性(性格等)を攻撃したことがある
今までに複数の部下が辞めたことがある
おとなしい部下には、ついつい口うるさくなる
自分の意見に反論する部下はいない
部下に意見を述べられるとむかつく
若手社員は、生意気だと思う
部下の顔、行動を見るにつれイライラしてくる

これらの項目の内、1つでも該当すれば「パワーハラスメント」的要素があるといえます。厳しい基準ですよね。無意識に部下に行っていることがパワーハラスメントになっている可能性があり、そのことに気づいていない上司がいるのも事実ですから、チェックリストは辛目に設定しています。重要なことは自分がしている行為に対して部下がどのように感じているかを自身がしっかり認識することです。このチェックリストはとても役立っていると思いますね。

パワーハラスメントを起こさないために心掛けること

パワーハラスメントを未然に防ぐための心掛けも明示しています。これも曖昧ではあまり意味がないので、できるだけ具体的にしました。たとえば、「部下の話を途中で遮らず良く聴く事」。これは些細な事のように思えてとても重要です。話を最後まで聴かず遮るような行動があると、それが不信感や誤解に発展することがあります。まずは部下の話を良く聴くことがパワーハラスメント抑制の一歩です。次に「部下の多様な価値観を理解し自分の考えを押し付けない事」。まず自分がこう指導されてきたからという考えを捨てなくてはなりません。その上で部下のタイプを見極め、それぞれの部下が能力を発揮できるようにアプローチ方法を変えることです。そして「コミュニケーション量・質を上げ信頼関係を作る事」。具体的な指導やフォローの声かけなどをこまめに行なうことが信頼関係を作るポイントです。またこれらの心がけやそれに対する対処法は、パワーハラスメントであるか否かという問題以前に当社の全社員で共有しているマネジメントハンドブックにも明示されています。このようにパワーハラスメントを未然に防ぎ有効なマネジメントを行うにはやはり各部署におけるコミュニケーションが必要です。そして、毎日少しずつコミュニケーションの頻度を上げていく地道な行動が必要になります。これらの心掛けを日々守ることで、職場でのストレスをなくし、個々が相手を思いやる風土を育てていかなければなりません。風通しがよく、お互いを尊重し、適切なコミュニケーションがとれる職場環境をつくることがパワーハラスメント対策につながります。ストレスがあることを早期に気づき、解消のための対策を施したり、あるいはストレスに強くなることも大切です。パワーハラスメント対策とは、企業が健全に経営を行なっていくための重要項目の1つと考えています。

これからもハラスメント対策の内容を充実したい

ユニ・チャームでは、平成25年4月1日付で就業規程の改定を予定しています。改定案の骨子の中で、パワーハラスメントに関しての定義・処罰を再提示しました。新しい定義では上司から部下への行為だけでなく、先輩・後輩間や同僚間、部下から上司に対してのパワーハラスメントも含まれると規程。また、より具体的に行なってはならない行為をリストアップし、処罰に関しても「ハラスメント行為をし、なお悔悟の見込みがない者」と明確にします。これらの改定の目的は、ひと言でいうと「人に罪を犯させない」ための仕組みづくりです。パワーハラスメントは個人の資質によるものだけでなく、社会の仕組みの変化などによる外因が大きいと思います。ですから企業としては、さまざまな影響によって人が間違いを犯さないための抑止力となる仕組みづくりに重点を置こうと考えました。ハラスメントへの対応に終わりはなく、時代の変化とともに進化していく必要があります。ユニ・チャームは、社員一人ひとりが人生をより豊かに、より幸福に過ごせるよう、豊かな時間を過ごせる風土を築くなかで、今後もしっかりとパワーハラスメントに向き合っていきたいと考えています。

グローバル人事総務本部 人事グループ 渡辺幸成 氏

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