あかるい職場応援団
厚生労働省

社内でパワハラ発生! 人事担当の方他の企業はどうしてる?

【第3回】
パワハラ防止に向けての職場づくりについて―JFEスチール株式会社

人権啓発室長 筆谷佳高氏

JFEスチールの「職場のパワーハラスメント」に対する取り組みは、人権啓発室が中心となり行っています。人権啓発室では、毎年12月10日の「人権デー」に合わせて、全国のグループ会社、協力会社ならびに家族も含めて人権標語を募集しています。2012年は、前年に引き続いて過去最多の約9,700件の応募が集まったそうです。優秀な作品は「人権週間に寄せて」と題し、毎年発行・配布される「人権啓発リーフレット」の誌面で「人権標語入選」として紹介されます。リーフレットは約2万部が印刷され、毎年12月に全社員に賞与明細といっしょに配布されます。JFEグループの「企業行動指針」においては、「社会の人々、従業員を個として尊重し、企業活動において一切の差別を行わない」と人権尊重を明確に謳っておりますが、同社の人権への積極的な取り組み姿勢が伺える内容です。パワーハラスメント防止は、重要な人権課題であるとの認識のもと、セクシャル・ハラスメント防止と同様に、具体的な事例検討も取り入れた啓発研修を実施されています。その内容について、人権啓発室の筆谷室長にインタビューさせていただきました。

――本サイトの「なぜ今パワハラ対策」のページで紹介されている「ある役員の言葉」は、御社の役員様の言葉ですね。

厚生労働省のサイトで、当社の役員の言葉を紹介していただいて、とても光栄に思っています。その言葉とは、「全ての社員が、家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さん、お母さんだ。そんな人たちを、職場のハラスメントなんかで、うつに至らしめたり、苦しめたりしていいわけがないだろう」というものです。経営の中枢を担う役員から発せられた言葉であり、私たち社員も、真摯に共感をもって受け止めています。

ハラスメント防止に向けての取り組みを強力に後押ししてくれたのがこの役員の言葉でした。

人権啓発室長 筆谷佳高氏

人権啓発室長
筆谷佳高氏

当社では、毎年12月10日の人権デーに合わせて「人権啓発リーフレット」を発行しますが、例年この役員の言葉を掲載し、社員とその家族に読んでいただいています。この言葉のとおり、私たち一人ひとりが、なんびとたりとも、職場でのパワハラ等により、萎縮、うつなどに至らしめてはならないという強い決意を持つことが大切だと思います。もし共感される企業や組織があれば、この言葉をどしどし使っていただけたらと思います。

パワーハラスメント対策を本格的に行なったきっかけは?

当社は鉄鋼メーカーで、職場においては、圧倒的に男性社員が多い会社組織です。かつては当社も含め、多くの企業・職場では、業務上の適正な範囲を超えた、パワハラに相当するような不適切な言動が咎められずに放置されるような状況や雰囲気があったのではないかと思います。社員の中に「自分は、かつてもっと厳しいことを受けながら、頑張ってきた。だから今の自分がある。ついて来れない人は、だめなやつ。」というような意識や「自分はこのように会社で育ってきた、だから現在もそうあるべきだ」との一方的な思い込みやそれを是としている気持ちがあるとすれば、早速修正して貰うことが必要だと考えています。語弊があるといけないのですが、かつての「悪い上司」をロールモデルにしていないかどうか、各自が再確認することを人権啓発研修においても求めています。私たちを取り巻く時代や環境は、かつてとは大きく変化してきているという事実を十分認識することが必要です。

また、互いの人権を尊重し、個を尊重するという各人の意識・姿勢が、安心して、自信をもって、周囲の人々と連携・協力して活き活きと働くことができる明るい職場を作っていくことになります。このような職場ではパワハラなどのハラスメントは起こりません。そしてこのような職場でこそ、各人の能力が最大限発揮され、当社が最も大切に考えている安全性の向上や生産性の向上、技術開発や高付加価値商品の創出を図っていくことになると考えています。

――パワーハラスメント対策としてどんなことを行っていますか?

パワハラ防止に向けて、研修啓発活動に注力しています。当社の啓発研修では、役割別研修(入社時や役職昇進時の研修等)、事業所研修、グループ会社研修等でセクハラ・パワハラ防止に向けたプログラムを積極的に展開しています。たとえば役割別研修では、職位、職能資格毎に新入社員から初任部長研修等の中で、ハラスメント防止に向けたプログラム内容を実施・展開しています。研修では、ハラスメントとは何なのか、なぜ厳しく禁止することが必要なのか、そして具体的にどのような行為や言動がパワハラ等に該当することになるのかを十分理解してもらうことが大切であると考え、できるだけ事例に即した内容にしています。また、馬鹿にする(尊厳を侵害する)、仲間はずしをする(不利益・不平等)、いじめる(攻撃)といったパワハラにおける行為類型や態様と部落差別をはじめとする人権侵害行為との同質性を認識し、パワハラによる人権侵害の重大性と発生の未然防止の重要性に気付いて貰うように努めています。また研修では、身近な職場で起こり得るハラスメント事例を提示し、受講者同士によるグループディスカッション(意見交換)と組合せた事例検討を実施しています。具体的には、講師が事例を一問ずつ読み上げ、受講者が各自で判断していき、終わったところで、受講者がグループで判定結果を意見交換してもらい、最後に講師が「参考」として解説を実施しています。必ずしも判定には確定的な「正解」があるわけではありませんが、似たような行為が発生している職場にとっては、各自の言動への気付きを促すことになって抑止力が働く効果や、職場で似たような行為があったときに、気軽に指摘し話し合える効果を期待しています。また、パワハラ等の個別相談については、当然のことながら、相談者の立場に立って丁寧に状況を傾聴し、相談者が何をしてほしいかをきちんと把握するように努めています。なお、個別相談内容が、全社的に起こりうる可能性のある事案であると判断される場合には、類似の事案発生を防止する観点から、全社に向け職場管理者である部長・室長に対し、発生の未然防止に向けて文書等により注意喚起を促すこともあります。

ディスカッションと組み合わせた事例検討とは?

パワハラは、行為者本人が気付いていないことも多いと考えています。第三者に指摘されて、ようやく理解・認識するケースもあると思います。他人事ではなく、当事者意識を持つことが大事であり、職場内において誰もが被害者・加害者双方になりうる可能性があることを十分認識して貰う必要があります。そこで、職場内で起こりうる身近な事例の検討とグループでの意見交換を組み合わせたプログラムを実施しています。ここで使用しているのは「こんな職場ってどうよ」というタイトルの事例検討資料です。ハラスメント事例を提示し、「あなたの感性で判定をつけてください」と各自で判断する内容にしています。

社内で作成した資料を元に説明をする筆谷氏

社内で作成した資料を元に説明をする筆谷氏

判定は、「問題あり×」、「やや問題あり△」、「微妙◇」、「許容できる○」、「問題なし◎」の5択を用意していています。設問は、たとえば『部内会議資料のデータ数字に入力ミスがあり、上司から「おまえはあほか、死んでしまえ。無能なやつは会社をやめろ」と怒鳴られた』といった具体的な状況設定を行なった内容にしました。受講者各自が、当事者意識を持って事例を判断して貰うようにしています。自らの言動への気づきを促すことにもなり、ハラスメントへの理解を深めるためには、この方法は有効であると考えています。受講者同士の意見交換は、通常4~6人程度のグループで実施し、各グループでの意見交換後に選任したリーダーから各問毎にコメントを発表させるようにしています。

――「問題あり×」、「やや問題あり△」か、意見が割れそうな質問項目もありますね。

例えば、『休日に行なわれる職場の懇親ゴルフ会に子供の運動会があり参加できないと言ったら、上司に「職場の人間関係の方が大事だろ」と不愉快そうにいやみを言われた。』

この設問については、企業によっては「微妙」や「やや問題あり」という答えが多くなるところもあるかもしれません。

また、「問題あり」や「やや問題あり」に該当すると判断しても、即パワハラとは判定しないとの回答もあるかもしれません。

設問では、細かい場面設定は省いており、したがって状況次第では判断が異なることもありうること、そして結果の正解、不正解ではなく、グループでの意見交換をしたそのプロセスの中の自らが主体的に考えた各自の意見が大切であることを研修時に付言しています。

この設問について、「休日の使い方は、本来各人の自由であるべきであり、断りづらい上司等の圧力による半強制は許されず、参加しない自由は保障されるべきである」と判断し、休日における職場行事への参加強制は禁止されるべきだとの認識に立ち、設問中で「不愉快そうにいやみを言われた」ことについても、状況や程度にもよりますが、基本的には「問題あり」と判断しパワハラ行為と判定せざるを得ないと当社は考えます。このような事態が発生し、改善を要望する社員が現実に発生した場合には、厚生労働省が今年3月に公表した「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」に明記された概念に立ち返り判断することになります。即ち「・・・業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」に該当するか事案毎に判断するということです。設問では、本人に「業務の適正な範囲を超えて精神的苦痛を与えている」と認定し、パワハラに該当すると判断しました。

状況次第で判断は異なることもあるかもしれませんが、パワハラに該当するかどうかを判断する基本的な考え方については、研修においてできるだけ分かりやすく具体的に明示しておくことが必要であると考えています。

JFEスチールの取り組みにおける今後の課題

――これからのパワーハラスメント対策の課題はなんですか?

パワハラ防止に向けて私たち一人ひとりが、なんびとたりとも、職場でのパワハラにより、萎縮・うつなどに至らしめてはならないという強い決意を社員全員が持つことが必要です。そのような意識を社員全員が共有するように、パワハラ防止に向けて、地道な啓発研修を、繰り返し実施していきたいと考えています。パワハラが起きる職場では、職場メンバーの中に相手の意思を無視したり、ないがしろにしたりする意識・姿勢があることを認識する必要があると思います。まさに職場全体の人権感覚が問われているのではないでしょうか。私たちが、パワハラの被害者・加害者双方にならないためには、職場の人権意識を高め、良好な職場のコミュニケーションを構築することが必要と考えています。上司と部下、同僚間等のコミュニケーションが良好でない場合には、瑣末なことがハラスメントに発展していく可能性も増大していきます。研修の中で特に強調していることは、職場内において、パワハラが発生した場合には、被害者の訴えに直ちに耳を傾け、理解を示すことが大切であり、決して傍観者にならないことが必要であると繰り返し説明しています。前記の「提言」の中でも、職場の一人ひとりの取り組みとして、問題を『見過ごさずに向き合い、こうした行為を受けた人を孤立させずに声をかけ合うなど、互いに支え合う』ことを提唱しています。引き続き、パワハラ防止に向けて、私たち社員一人ひとりが、他人を思いやる、相手の立場で想像力を働かせるといった人権尊重の基本に立ち戻り、他人事ではなく当事者意識をもって真摯に取り組んでいく姿勢が求められていることを理解して貰うようにしていくつもりです。

――そのなかでも一番大切なアクションはなんでしょう?

パワハラなどが発生しない職場にするには、職場の人権意識を高め、良好な職場のコミュニケーションと信頼関係を構築することが何より必要です。職場において、一人ひとりが相互にパートナーとして認識し合い、自分の意見、考えを率直に表明でき、また周囲の人は異なる意見であっても丁寧に傾聴すること、例えば、仕事の進め方や職場に起因する様々なできごとや課題について、自分の意見を言い、人の意見を聴き、みんなで議論ができるということです。そのような中で相互の信頼関係が生まれるのだと考えています。各人が「言っていいよ、私は聴くよ」という姿勢を示し、メッセージを発信することができることが大切であると考えています。

明るく風通しのよい職場づくり

――もうすぐ、世界人権デーですね。

12月10日は世界人権デーです。12月4日から10日は人権週間と定められています。これに因んで当社では、グループ会社、協力会社ならびにそのご家族も含めて広く人権標語を募集し、また「人権啓発リーフレット」を作成し全社員に配布しています。その中で、ハラスメントなどが起こらない、明るく風通しのよい職場づくりに向けて、職場での具体的行動等について各自が主体的に考えるように以下のように呼びかけています。即ち、「ハラスメントなどが起こらない、明るく風通しのよい職場づくりには、お互いを尊重し、感じたこと、考えたことを率直に述べ合い、丁寧に耳を傾けるという良好な人間関係とコミュニケーションが大切です。そのためには、私たち一人ひとりが職場においてなすべきことは何か、どのように工夫すればよいのか、そして具体的にどのように行動していくか、考えてみましょう。」との文章を掲載し、相互信頼に基づいた良好な人間関係の構築を呼びかけていきます。本年も約2万部の「人権啓発リーフレット」を作成し、賞与明細と共に社員に配布します。社員が自宅に持って帰り、そのご家族と共に読み、改めてみんなで人権について考えて貰うようにしています。そして社員全員が決して他人事ではなく、人権全般について、当事者意識をもって考え行動することを期待しています。

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