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厚生労働省

「パワハラ基本情報」裁判例を見てみよう

  • 身体的な攻撃型
  • 同僚同士のパワハラの裁判例
  • 加害者についての処分についての裁判例

【第9回】
加害社員に対する懲戒(譴責)処分の可否

はじめに

近年、職場においてパワハラ行為をした加害社員に対し、会社側が懲戒権等を行使するケースが増えていますが、社内における処分例が乏しく、どの程度の処分をなすべきか悩ましいところです。ここでは裁判例を素材としながら、加害社員に対する懲戒処分の留意点について解説を行うこととします。

事案の概要

原告Xは、被告会社Y1のフレッツ第二部門に所属していましたが、平成18年7月1日に被告Y2に出向しました。被告Y2は、Y1の関連会社であり、Y1・Y2ともに電気通信設備等の設計、工事、運用、保守等を行っていたものです。

XはY1社在籍時である平成18年4月27日、Xは社用備品の担当をしていた派遣社員のBに対し、プリンターの調子が悪いと申告しましたが、前日と当日に業者の修理が来ていたため、Bがそのことを指摘しました。そうしたところ、XがBの席に来て、「謝れ。」、「辞めてしまえ。」などと言いながら、Bの椅子を蹴るなどしました。その後、Bの隣の席のAが仲裁に入ったため、Xは一旦自席に戻りましたが、同日午後5時ころ、Xは再びBの席に来て、名札を破いたり、Bのパソコンの画面を閉じるなどしました。

Y1社は、同年5月18日付けでXの当該行為が派遣社員Bに対し、屈辱感と恐怖感を与えるとともに、職場規律を著しく乱し、業務の遂行に支障を来すなど風紀秩序を乱す行為を行ったものにあたり、またXは自身の一部の言動を認めず正当化を主張するなど改しゅんの情が無いことなどを総合的に考慮し、社員就業規則72条14項に基づき、Xを譴責処分としました。またY1社は本件譴責処分を理由として、Xに対する賃金のうち成果加算部分の減算を決定し、同年10月13日にXに通知しました。同減算の結果、Xの給与のうち成果加算給が平成19年2月から平成20年1月までの12ヶ月間で、毎月1475円、合計1万7700円の減額となりました。

これに対し、Xは譴責処分無効を前提に、減額された賃金の支払い等を求めるとともに、その他別件トラブル等に対し損害賠償請求を求めたものです。

判決内容 請求一部認容

請求一部認容(譴責処分有効とし、譴責処分無効を前提とした賃金請求等棄却。別件トラブルに対する損害賠償請求の一部を認容。

譴責処分とこれに伴う減給

使用者の懲戒処分の選択については、企業秩序維持の見地から使用者の裁量が認められるのであって、当該懲戒処分に懲戒事由が存在し、社会通念に照らして相当性を欠く等裁量の範囲を超えてされたものでない限り、その効力を否定できないというべきである。

本件譴責処分は・・認定した事実を非違行為としてなされた処分であるところ、原告の行為は、人材派遣社員に対する暴言等の言動により、職場秩序を乱す行為であるから、本件譴責処分には合理的な理由が認められる。また・・認定した原告の言動内容に加え、譴責処分が懲戒処分の中でも軽い処分であることにかんがみれば、本件譴責処分は社会通念上相当なものと認められる。

以上によれば、その余の争点について検討するまでもなく、本件譴責処分の無効を前提とした原告の損害賠償請求及び賃金請求は、いずれも理由がない。

パワハラの加害社員に対する懲戒処分について

パワハラの加害行為を行った社員に対する懲戒処分等を検討する際、まず問題となるのが、加害行為の事実確認です。上記事案において、Xは派遣社員Bに対する暴言行為の事実を否定し、むしろ派遣社員Bがけんか腰の口調であった等との主張を展開しました。さらにBとのトラブルに居合わせた同僚社員Aから暴行を受けたとし、Aおよび会社に対して損害賠償請求を提起していたものです。

会社側としても、非常に対応が難しい事案であるといえますが、本判決ではXによる派遣社員Bへの暴言等を慎重に事実認定の上、当該行為が「職場秩序を乱す行為」であることを理由に譴責処分の有効性を認めました。双方の主張が対立する中、当該事実認定に至った理由としては、当該暴言行為に居合わせた関係者からの証言が有力な証拠になるほか、時系列に沿った事実整理による点が大きいと思われます。

当該事実認定を前提とすれば、本件Xの暴言行為は懲戒事由に該当する上、処分内容も「懲戒処分の中でも軽い処分」である譴責であるため、懲戒処分有効との結論は妥当といえます。

なお本判決においても示された懲戒権濫用法理については、労働契約法15条で次のとおり明文化されています。「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」。

コメント

パワハラ行為の懲戒事由への追加について

本件ではXの暴言等がY1社就業規則の懲戒事由の1つにある「非行について再三注意されて改しゅんの情がない」に該当する事を理由に懲戒処分に付しました。

懲戒処分を行う場合、あらかじめ就業規則に懲戒の種別・事由を定めておくこと(国労札幌地本事件 最3小判昭和54.10.30民集33巻6号647頁)及び「適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが取られていること」を要すること(フジ興産事件最2小判平成13.10.10労判861-5)とされています。

現状では「パワハラ行為」を就業規則の懲戒事由に定めている会社はまだ少数に留まっていますが、本件のようなパワハラ行為は従前から定めのある懲戒事由に概ね該当するものといえ、懲戒規定へのパワハラ行為の追加は必ずしも必須とはいえません。しかしながら、就業規則上、懲戒事由にパワハラ行為を追加し問題がある事案は懲戒処分に付す旨、会社のスタンスを明らかにすることは、社内的にパワハラ防止に向けた意識が高まる契機となる面があり、その見地から就業規則の整備も大いに意義があるものと思われます。

 

著者プロフィール

北岡 大介
北岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士