あかるい職場応援団
厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 相談対応における会社の責任についての裁判例
  • 加害者についての処分についての裁判例

【第8回】
ハラスメント相談対応について

はじめに

職場のパワーハラスメントを予防・解決するための取組の1つとして、「相談や解決の場を設置する」ことがあります(参照ページ 職場のパワーハラスメントを予防・解決するための組織の取組)。最近、多くの企業では、社内外に「ハラスメント相談窓口」等を設け、従業員への周知を図っていますが、ハラスメント相談・解決窓口の適切な運用は容易ではありません。ここではセクハラに係る相談対応をめぐる裁判例を取り上げ、ハラスメント相談対応上、留意すべき点を解説します。

事案の概要

X1およびX2(いずれも男性)は新聞輸送を業とするY社の従業員であり、A(女性)はY社で派遣社員としてX2の下で業務に従事していました。勤務終了後にX1・Aおよび同僚2名が居酒屋で飲食等し、X1とAがタクシーで帰路につく途中、車内でX1はAが着用していたスカートの右裾部分を下着が露出する状態まで引き上げました。その後、Aは上司であり総務部副部長の地位にあるX2に本件行為に関して被害申告をしたところ、X2は同日の夕刻、社内電話でX1から30分程度の事情聴取を行いました。そこでX1はX2に対して、Aは帰宅途中、酩酊のため駅構内で嘔吐しており、被害申立の件も、タクシー座席シートにAの吐瀉物が付かないようにするためスカートを引き上げたとの主張を行いました。X2は当該説明を信じ、Aに本件説明を伝え、さらに同翌日、X2は取締役に対しても、X1の説明を前提に本件行為はセクハラ行為にあたらないと報告しました。その後、X2はAに対して、セクハラ行為にあたるのはAの誤解であると告げ、本件被害申告をこれ以上問題にしないよう発言するなど不適切な発言を繰り返しました。

その後、Aは社内の労働組合に本件被害申告事実の相談を行い、同労組が会社との団体交渉事項に本件被害申告を取り上げたところ、Y社代表者が初めて当該被害申立を知ることとなり、X2を被害申告担当から外し、E取締役に改めて調査・対応を行わせることとしました。E取締役はこれを受け、Aと面談し事実聴取を行ったところ、X1の主張に矛盾点が生じ、本件被害申立が事実であったとの判断に至ります。Y社はこれを受け、Aとの示談交渉を進め、X1が慰謝料100万円を支払うこと、Y社代表者がAと面談し謝罪する等の対応を講じました。その上でY社は、X1、X2らに懲戒処分として降格等を行ったところ、同人らは当該降格処分が無効であると主張し、地位確認および賃金差額請求等を求め提訴したものです。

判決 請求棄却

「本件行為はAの意に反してなされたAの羞恥心を害する態様での身体に対する違法な有形力の行使であるものと認められる。・・被害申告事実に関するAの証言ないしこれを録取した書証の信用性は極めて高い。これに対し、本件行為に関するX1の本件説明は、Aの供述に照らして、不自然かつ不合理であって信用できない」。

「X1は、Aに対しセクハラ行為に該当する被害申告事実を行い、その後の経緯としてAがYを退職するに至り、Yは被害申告事実に対する対応を余儀なくされ、Y代表者がAに対し謝罪をする等の事態に至っているのであって、X1降格処分には合理的な理由がある」

「原告X2は、本件被害申告当時、被告の総務部副部長の地位にあり・・本件被害申告に対応し適切に処理すべき職責を負っており・・にもかかわらず、原告Xは・・・本件被害申告後まもなく、(加害社員X1から)電話で聴取して本件説明を受けた段階で安易に本件説明を真実であるものと信じ、被害申告事実は派遣社員であるAの誤解によるものと判断したものであり、原告X2が負っていた職責に照らして、判断に至る調査方法は不適切であるとともに、調査内容も不十分であり、その判断姿勢も、公平、中立さに欠けるとの評価を免れないものであった。・・また原告X2は、上司に対し、本件説明が真実であって本件被害申告に係る本件行為はセクハラ行為に当たらないとの判断を前提とする報告しかせず・・本件被害申告に関する問題を被告が公平・中立な立場から解明する機会を遅らせ、本件被害申告に関する問題の解決を長期化させた。以上によれば、原告X2がその職責にふさわしい責任を全うしていなかったことは明らかであり、原告X2降格処分には合理的な理由があり、原告X2降格処分は、被告が有する人事権の裁量の範囲内の措置として有効である。」

ハラスメント相談対応上の留意点—セクハラ指針からー

上記事案はセクハラ相談に係る案件ですが、パワハラの相談・解決に際しても同様に相談担当者は適切な相談対応が求められています。それでは如何なる相談対応をなすべきでしょうか。この点で参考になるのが、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(いわゆるセクハラ指針)です。同指針はセクハラに係るものですが、同指針では相談対応について概ね次の留意点を示しています。

事業主は、職場におけるセクシュアルハラスメントに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次の措置を講じなければならない。

イ 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。 (事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認していると認められる例)

①相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談を行った労働者(以下「相談者」という。)及び当該職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な言動の行為者とされる者(以下「行為者」という。)の双方から事実関係を確認すること。また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること

②事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、(略)・・調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること。

同指針において、相談対応上の留意点として筆頭にあげられているのが「事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること」です。上司・同僚などが当該調査を行う場合、これまでの人間関係などに調査が左右されることがあり、事実関係の正確な確認は容易ではありません。このため、当該調査を行うのは、一般に相談窓口担当者、人事部門又は専門の委員会等が行うことが望ましいといえます。

コメント

本事案では上司が直接、相談対応を行ったところ、拙速な調査の上、行為者等に対する「思い込み」が多分に含まれ、結果的に正確な事実関係の確認がなされませんでした。上記のとおり、会社内に相談窓口を設け、ここで事実関係の調査を行わせることによって、本事案のような問題は回避しえた可能性があります。また相談対応を行う場合、本件のように電話一本でその事実調査を行う方法は適切とはいえず、慎重に相談者、行為者、さらには第三者からヒアリングをし、調査を進めていくことの重要性が示唆されるところです。

 

著者プロフィール

北岡 大介
北岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士