あかるい職場応援団
厚生労働省

「パワハラ基本情報」裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型

【第61回】
店長から労働者への発言が違法なものであったとして、会社に損害賠償義務が認められた事案

結論

労働者に対する労働者が勤務していた店舗の店長による発言は、当該労働者に精神的苦痛を与え、もって会社の事業の執行について労働者に違法に損害を加えたものと認めることができるから、会社は労働者に対し、5万円の損害賠償義務を負う。

事案の概要

Y社はコンビニエンスストアの店舗運営を業とする会社であり、XはY社に期間を定めて雇用され、A店舗で勤務し、その後、A店舗の閉店により一旦契約を終了した後、再度雇用され、B店舗で勤務していたが、B店舗も閉店することとなったため、Y社はXに対し、雇用契約期間満了により契約を終了すること(以下「本件雇用契約終了」という。)及び継続して契約を締結する場合の労働条件を提示したものの、最終的には雇用契約が締結されなかった、という経緯の中で、XがY社に対し、地位確認や賃金の支払い請求と共に、本件雇用契約終了の1カ月ほど前になされた、B店舗のC店長に対する言動がパワーハラスメントである等として、慰謝料の支払いも求めた事案。
(なお地位確認請求は認められず、また、上記パワーハラスメントを理由とする部分以外の慰謝料請求は認められていない。)

判決のポイント

1.C店長の具体的言動

C店長は、Xから同僚Dと揉めて殺されそうである旨の連絡を受けて所定労働時間より早く出勤し、X、Dらと話をしようとしたが、話が済む前にXの退勤時間(午前9時)を過ぎたことから、Xが退勤しようとしたため、C店長は退勤しようとするXを制止しようとして激しい口調となり、(Xは午後5時から再度勤務をすることになっていたが)「あなた今日出勤しないでください。お金は払います。お金は払うんで来なくていいんです。」といい、Xの「今日来た分と同じ給与支払われるんですか」との問いに対し「もちろん。最高じゃない」と答えた。

さらに、「お前ふざけんなよ。この野郎、うんじゃねえんだよおめえよ。この野郎。カメラ写ってようが関係ねえんだよ。こっちはよー、ばばあ、てめえ、この野郎、何考えてんだよ」「辞めてください。来ないでくなさい。」「店に来んなよ。来んなよ。辞めろよ。」「どうするの。じゃ、今日来るなよ。二度と来んなよ。二度とな。」等と述べた。
(その後、所定賃金は支払われる一方で、XはB店舗に出勤しなかった。)

2.C店長の言動の違法性及びYの責任

C店長が、勤務時間終了を理由に帰宅しようとするXに立腹して、同人に対し、「ばばあ」等の暴言を交えて激しい口調で不穏当な発言をして精神的苦痛を与えたことは、Xに違法に損害を加えたものである。

C店長の言動はYの事業の執行についてなされたものであり、YはXに対し5万円の損害賠償義務を負う。

なお、Xの就労を拒否した点については、賃金相当額が支払われていることから、損害は認められない。

コメント

感情的になった言動には注意が必要である

上記で挙げた各C店長のうち、例示されている「ばばあ」との言動を除いては、具体的にどの言動が裁判所によって「不穏当な発言」として捉えられたかは、必ずしも判然としないものの、「お前ふざけんなよ」「この野郎」「てめえ」といった言葉遣いや上司の部下に対する「辞めろよ」といった発言等を見れば、違法であると評価されたことはやむを得ないものでしょう。

ところで、このXは、他の争点との関係で、裁判所により「他者の話を聞かずに自己の要望を言い連ねて押し問答を仕掛けたり、職場でトラブルを起こして各位の顰蹙を買ったりすることを頻発する原告の態度や性格が嫌われた」と認定されており、例えば、上記C店長の言動が生じる数日前にも、顧客とトラブルとなり、顧客が受け取ろうとしない釣り銭とレシートをレジ台の上においてその場を離れてしまい、無視されたと感じた顧客がお客様相談室に苦情を申し入れる事態を招くという出来事もありました。そういった中で、C店長において普段からXに対する不満等があったことは想像に難くありません。

しかしながら、いかに労働者側に問題があるからといって、上述のような暴言が許されるものではありません。そういった労働者に相対するときこそ、注意指導する側においては、より一層冷静に対処する心構えが必要となるでしょう。

 

著者プロフィール

加藤 純子(かとう じゅんこ)
安西法律事務所 弁護士
2008年 弁護士登録