あかるい職場応援団
厚生労働省

「パワハラ基本情報」裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型

【第60回】
退職を意図したものではないなどとして、暴言や嫌がらせについて損害賠償請求が認められなかった事案

結論

諭旨解雇は無効とされたものの、不法行為は成立しない、として賠償請求は認められなかった。

事案の概要

社会福祉法人Yが運営する特別養護老人ホーム(本件施設)において、副施設長の地位にあったXが、Yから、不当な配置転換・降格を命じられた上、不当に諭旨解雇されたと主張し、Yに対して、雇用契約上の地位確認及び慰謝料支払い等を請求した。本件施設には、Aが施設長、Bが事務長代理、Cが施設長補佐を務めていた。

判決のポイント

(1)諭旨解雇については、業務命令違反があるものの、業務命令に従ったこともあること、業務命令違反の背景にはXとA施設長らとの対立があり、双方の意見等の対立を背景とする業務命令違反の効果を、解雇という形でXに負わせるのは相当でなく、したがって、諭旨解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められず無効。

(2)Y内での会議でXが、Xの方針に反発する従業員がA施設長に対し、自己の意見を直接述べることについて問題提起した際に、C施設長補佐は、Xに対し、「あんたが何をやっているのか、皆に教えてやろうか」と発言した。また、Xは、別部署へ配転された際、知らないうちに、施設内メーリングリストから外されていた。
このように、A施設長らは、Xに不愉快と感じられる言動をしたことが認められるが、A施設長らが、Xを退職に追い込もうと企図し、暴言や嫌がらせや恫喝(パワハラ)を重ねたなどと認めることもできない。したがって、Yに不法行為は成立しない。

コメント

相手にとって不愉快と感じられる言動であったとしても、必ずしも損害賠償請求が認められるものではない。また業務命令違反を理由に懲戒処分を検討する上では、違反に至った背景をも考慮するべきである。

A施設長らの言動は、Xに不愉快と感じられる言動であったものの、Xを退職に追い込もうと企図したものではなく、また暴言や嫌がらせや恫喝(パワハラ)を重ねたなどと認めることもできないことから、損害賠償請求が認められませんでした。

業務命令違反を認めつつも、違反に至った背景などを踏まえ、諭旨解雇としての有効性を否定した点は、同様の事案での対応を検討する上で参考になります。

 

著者プロフィール

荻谷 聡史(おぎや さとし)
安西法律事務所 弁護士
2008年 弁護士登録