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厚生労働省

「パワハラ基本情報」【第58回】 「介護員に対する雇止めは、著しく合理性、相当性を欠き、権利濫用で無効であるとして、地位確認及び損害賠償が認められた事案」 ―恵和会宮の森病院(雇止・本訴)事件

  • 精神的な攻撃型

【第58回】
介護員に対する雇止めは、著しく合理性、相当性を欠き、権利濫用で無効であるとして、地位確認及び損害賠償が認められた事案

結論

笑顔がない、などといったことを理由とした介護員に対する雇止めは、雇止めの合理性・相当性に欠け、無効であり、地位確認と賃金等の支払いを認めた上、当該雇止めは違法であり不法行為に該当するとして、20万円の慰謝料及び5万円の弁護士費用の支払いを命じた。

事案の概要

病院Yに介護員(Yにおける準職員)として期間の定めのある労働者として雇用され、雇用契約が、3ヶ月間の試用期間を経て、期間を1年として3回契約更新されたXが、3回目の契約期間満了時において、人事考課の結果、笑顔がないなど介護員の資質が低すぎることを理由に、雇用契約が更新されなかった(以下「本件雇止め」という。)ことから、Yに対し、Yとの雇用契約上の地位の確認と賃金、また、本件雇止めにより精神的苦痛を被ったとして、慰謝料を請求した事案。

判決のポイント

1. 雇止めに係る判断基準

Yの介護員は全員準職員であること、準職員の就業規則に定年は60歳である旨の記載があること、採用時に何事もなければ1年毎に契約を更新する旨の説明があったこと、Xは4年3ヶ月にわたって勤務していたこと、介護員の多くは契約更新がなされていたこと、準職員の労働条件は正職員とほとんど差異がないことなどからすれば、Xは労働契約が更新され、継続されて雇用されるという期待をもつ状況にあったといえるから、XとYとの労働契約は、実質的に期間の定めのない労働契約と異ならないというべきであり、雇止めが著しく合理性、相当性を欠く場合は、解雇に関する法理を類推し、権利の濫用として無効。

2.本件雇止めの違法性

Xは上司Nから口頭で、「笑顔がない。患者や他の部署から苦情が出ている、不満そうなオーラがでている。」ことを理由として本件雇止めを告げられた。また、Yの記録によれば、Xの平成13年5月の人事考課は74点、同年12月は86.5点であった一方で、本件雇止め直前の平成14年6月の人事考課は58点であり、上司N及び責任者Mは、「笑顔がなく何か不満そうな顔表情はマイナスであることを注意指導してあったが、その後も変わりなく」「何度礼節(特に笑顔の不足)を注意されても改善されていない。何が患者さんにとってホット安堵できる行為か、もとめられているかがわかっていない」等という点を介護員としての資質の低さとして挙げている。

しかし、人事考課の評価点が下がったのは上司の交代(上司Nは平成14年4月に着任した。)による評価基準の相違によるものであることが窺われるし、笑顔がないなどというのは多分に主観的な事柄であり、介護員としての不適格性を直ちに断じ難く、その他の事情(懲戒処分歴がないなど)を考慮すれば、本件雇止めは、Xにとって過酷であり、著しく合理性、相当性を欠く。

3.雇止めの不法行為該当性について

Yは雇止めの理由として、主に笑顔がないなどとする点を問題にするが、これらは多分に主観的な事柄であって、雇止めの理由としては合理性に疑問がある。しかし、Yは雇止めをしているから、本件雇止めは不法行為に該当し、YはXに慰謝料20万円と弁護士費用5万円の支払い義務を負う。

 

コメント

人格に係る問題点を理由とする雇止め等には注意が必要

本件の慰謝料請求において、Xは本件雇止めが、Xの容貌や人格に対する中傷であり、その中傷をもってその生活基盤を突然失わせたものである旨主張をしています。しかし、本件判決では、Yが挙げた「笑顔がない」などといった理由が、Xの容貌や人格等に対する中傷か否か自体については、特段の判断をしておらず、慰謝料も人格に対する中傷を理由として認められたものではなく、あくまで雇止めが理由を欠く違法なものであったことを理由として認められていることには留意が必要です。

特に接客業等では、売上成績、あるいは、勤怠といった数値ではかれる指標以外の、接客時の表情等を含む態度や取組み姿勢が、勤務評価のひとつの指標となり得る場合があることは否定できないところでしょう。しかし、本件のように、「笑顔がない」というような、主観にも左右される点を主たる点として雇止めを行ったり、あるいは何らかの注意を与えたりする場合には、事前に、それが単なる思い込み等ではなく、本当に雇止めの理由となったり、注意をすべき点であるかについての十分な検討が必要であることはもちろんのこと、その伝え方によっては、その発言自体が違法行為として損害賠償の対象となることもあり得ますから、どのような言葉で伝えるかについても配慮が必要となるでしょう。

 

著者プロフィール

加藤 純子(かとう じゅんこ)
安西法律事務所 弁護士
2008年 弁護士登録