あかるい職場応援団
厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型

【第49回】
管理職としての配慮に欠ける言動が違法であるとされた事案
社内ルールに反する取扱いを行うに当たり説得をしなかった点が違法であるとされた事案
職業上の誇りを傷つける言動が違法であるとされた事案

結論

C支社長が、他の社員の居る中で、Xに対し、不告知教唆の有無を問いただしている点は、管理職としての配慮に欠けるものであり、違法である。

X班の分離に際して時間をかけたXの説得を怠った点において、違法との評価を免れない。

いかにもマネージャー失格であるかのような上記の言葉を使って、叱責することは、マネージャーとしてXの誇りを傷つけるもので、違法といわねばならない。

事案の概要

生命保険会社であるY社の鳥取支社米子営業所でマネージャーとして勤務していたXが、鳥取支社長であるC及び米子営業所長であるDから、逆恨みによる嫌がらせを受けたため、損害を被ったとして、Y社に対しては民法715条、同法709条ないしは同法415条、C支社長及びD所長に対しては同法709条に基づき、損害賠償を求めた事案。

判決のポイント

1.C支社長及びD所長の不法行為責任の有無

C支社長やD所長がXに対して、私的な怒りや恨みの感情をもっていたと認めることはできない。

C支社長が、他の社員の居る中で、Xに対し、不告知教唆の有無を問いただしている点は、管理職としての配慮に欠けるものであり、違法であるといわねばならない。
生命保険会社の営業職員にとって、不告知を教唆することは、その職業倫理に反する不名誉な事柄なのであるから、その点について、上司として問いただす必要があるとすれば、誰もいない別室に呼び出すなどの配慮があって然るべきであって、この点において、C支社長の上記行為は配慮が欠けていたといわねばならない。しかも、C支社長は、H営業次長の報告書により、Xは不告知教唆をしていないと述べている旨の情報を事前に知っていたものと推認されるばかりか、E案件に関しては、Y社のコンバージョンミスによるものであるから、告知義務違反の有無を問わず保険金を支払うのが望ましいとの認識を持ち、現に保険金部においてもその方向で処理されようとしていることを知っていたというのであるから、Xに対し、不告知教唆の有無を確認しなければならない現実の必要性があったかも疑問である。そうすると、C支社長は、Xとのやりとりをしているうち、不用意に、その現実の必要性も乏しいのに、他の社員が聞き及ぶおそれのある状況下において、Xに対し、営業職員としてのXの名誉に関わる質問をしたものであって、違法との評価を免れない。

Xの承諾なくしてX班の分離を実施したことについても、違法との評価を免れない。
Y社においては、マネージャーの承諾を必要とする旨の規則があったと認めることはでき、また、マネージャーは、将来自班の分離があるかもしれないことを了解した上で、これに就任しているものといえるにしても、班の分離は、緩和措置の措置が採られているものの、マネージャーの収入に直結し、その後の班の運営を大きく左右する問題であって、当時のマネージャーのうち少なくない者が、マネージャーの承諾が必要と考え、しかも、当のマネージャー候補者であるF自身がXの承諾がない中でマネージャーには就任したくないとの意向を表明していた状況下において、計画どおり平成15年4月にX班を分離しなければならない必要性があったと認めるに足りる証拠はない。平成14年7月にはX班の中にFグループが結成され、同グループが将来X班から分離されることは、Xにおいても認識していたとしても、その実施時期が平成15年4月であることをXが知らされたのは、実施の約1か月前である。その間、D所長や他のマネージャーがXを説得したことが認められるが、説得の期間として十分なものであったとはいい難い。班の分離が、営業所の活性化をもたらすもので、経営上の配慮の必要な事項であるとしても、上記のような状況下において分離を決行することが、果たして営業所の活性化をもたらすことになるとも考えがたく、Fの昇格の点も、Fが上記のような意向を示している以上は、X班の分離を平成15年4月に行わなければならない事情とは認め難い。また、このほかに、X班の分離を平成15年4月に行わなければならなかった必要性を認めるに足りる証拠はなく、もう少し時間をかけてXを説得することが必要であったといわねばならない。このような説得を怠った点において、違法との評価を免れない。

C支社長やD所長が、Xに対し、「マネージャーが務まると思っているのか」「マネージャーをいつ降りてもらっても構わない」等の言葉を使って叱責を与えることがあった点においても、違法といわねばならない。
当時のX班の成績は、他の班に比べて芳しくなく、Xを叱責してその奮闘を促す必要性があったことは否定できないが、長年マネージャーを務めてきたXに対し、いかにもマネージャー失格であるかのような上記の言葉を使って、叱責することは、マネージャーとしてXの誇りを傷つけるもので、違法といわねばならない。

2.Y社の不法行為責任の有無について

C支社長及びD所長は、Y社の被用者であり、C支社長らの上記②~④の行為はY社の事業の執行につきなされたものであるから、Y社も、Xに対し、民法715条1項による不法行為責任を免れない。

コメント

管理職としての配慮に欠ける言動は不法行為を構成すると判断される場合がある

本判決が指摘するように、たとえ私的な怒りや恨みの感情に端を発するものでなくても、さしたる必要性もないにもかかわらず、部下にとって不名誉な事柄について、他の社員のいる前で、不用意に問い質したりすることは、管理職として配慮に欠ける言動として、不法行為を構成すると判断される場合があると考えられます。また、本件の班の分離の実施のように、社内のルールに反する取扱いは、同ルールによって守られている利益を違法に侵害するものとの判断に繋がりやすいので、不法行為を構成すると判断される可能性が高くなると考えられます。さらに、本人の職業上の誇りを傷つける言動が不法行為を構成すると判断される場合があることは、言うまでもありません。

 

著者プロフィール

山岸 功宗(やまぎし よしひろ)
安西法律事務所 弁護士
2006年 弁護士登録