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パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型

【第48回】
園長による一連の行為が、妊娠を理由とする中絶の勧告、退職の強要及び解雇であり、当時の雇用機会均等法8条(現行法9条)の趣旨に反する違法な行為であるとされた事案

結論

A園長による一連の行為が、妊娠を理由とする中絶の勧告、退職の強要及び解雇であり、当時の雇用機会均等法8条(現行法9条)の趣旨に反する違法な行為である。

事案の概要

Y学園が経営するK幼稚園に勤務していたXが、K幼稚園のA園長から、中絶を迫られたり、退職を強要されたりしたこと等を理由に、A園長及びY学園に対し、A園長については不法行為に基づき、Y学園については法人の理事の不法行為責任に基づき、それぞれ、損害の賠償を求めた事案。

判決のポイント

1.O教諭の退職に至る一連の事実経過について

平成11年6月頃にO教諭の妊娠が判明した際、A園長は、O教諭に対して、避妊も含めた自己管理ができなかったことについて厳しく非難するとともに、O教諭が明らかに幼稚園教諭として未熟で間違った考えを持っていると考え、O教諭に対して退職を勧めたこと、その後、O教諭の両親をK幼稚園に呼び出してO教諭の責任についてどのように考えているのか問い質したこと、O教諭の出身校である短期大学就職部の担当者に連絡を取ったこと、K幼稚園の職員らに対し、園児や父兄からO教諭のことについて尋ねられても、妊娠したと答えてはならない旨指示したことが認められ、これらの事実経過に照らすと、O教諭は、A園長の叱責等に対して畏怖していたことは想像に難くなく、その退職後、K幼稚園の職員らの間には、担任教諭として在職中に、未入籍の状態で妊娠をすることは許されない、そうなれば厳しい叱責があり退職を迫られるかもしれないという雰囲気があったと認めるのが相当である。

2.A園長の不法行為責任の有無について

Xも上記1.のO教諭の退職に至る一連の事実経過について認識していたところ、7月6日にXがA園長に対して妊娠している事実を告げた後、A園長から、O教諭による上記の一連の事実経過を承知しているはずであるのに軽率であったのではないかと非難されるとともに、妊娠週数が4、5週であり、未だ胎児も小さいので、出産や妊娠についてはこれからも機会があるのではないかとして、暗に中絶することを勧められ、さらに、7月26日に、中絶をできない旨述べたところ、A園長から、園児のことや2学期及び3学期のことについてどのように考えているのか問い質されるとともに、妊娠という私事によって仕事が全くできない状態を作出したのであり、教師としても社会人としても無責任である旨非難され、また、私立幼稚園では予備の教員がいるわけではないので、育児休業中の代替教員をすぐに採用することは難しい旨告げられた上で、A園長から退職を勧められた事実が認められる。

Xは、7月6日にA園長から、暗に中絶を勧められ、7月26日に中絶ができない旨返答したのに対して、園児のことやクラス運営について問い質されるとともに、教師としても社会人としても無責任であると非難され、産前休暇等の取得が困難であることを告げられた上で退職を勧められたのであって、このようなA園長による一連の発言は、Xに退職を一方的に迫っていると評価されてもやむを得ないものである。さらに、妊娠したことが無責任である旨非難され、責任を果たすよう強く求められ、やむなく夏季保育のために出勤したXは、以上の経緯で肉体的・精神的苦痛を受けている状況下で流産という女性としてたえがたい事態に陥ったにもかかわらず、A園長は退職届の提出を執拗に求め、退職を強要しようとした上、結局、解雇したことが認められる。以上によれば、A園長による上記の一連の行為は、Xの妊娠を理由とする中絶の勧告、退職の強要及び解雇であり、雇用機会均等法8条の趣旨(注:当時の雇用機会均等法8条は、「事業主は、労働者の定年及び解雇について、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない。」(1項)、「事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。」(2項)、「事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、出産し、又は労働基準法第65条第1項若しくは第2項の規定による休業をしたことを理由として、解雇してはならない。」(3項)と定めていた。)に反する違法な行為であり、A園長は不法行為責任(民法709条)を免れない。

3.Y学園の不法行為責任の有無について

A園長は、Y学園の理事としての職務を行うに際し、上記の不法行為に及んだのであるから、Y学園は、A園長と連帯して不法行為責任を負担する(民法44条1項)。

コメント

妊娠を理由とする中絶の勧告、退職の強要及び解雇は雇用機会均等法9条の趣旨に反する違法な行為とされる

妊娠が無責任と非難され、責任を果たすよう強く求められ、やむなく夏季保育のために出勤し、肉体的・精神的苦痛を受けている状況下で流産という事態に陥ったにもかかわらず、退職届の提出を執拗に求めて退職を強要し、結局解雇したという本判決認定の事実経過からすれば、A園長は不法行為責任を免れないと考えます。

 

著者プロフィール

山岸 功宗(やまぎし よしひろ)
安西法律事務所 弁護士
2006年 弁護士登録