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【第5回】
内部告発等を契機とした職場いじめと会社の法的責任

はじめに

マスコミに会社の法令違反が疑われる行為を告発した社員が、その後、職場において人事異動などで不利益を受けた場合、当該人事配置等は違法となり、損害賠償請求等の対象となるでしょうか。ここでは以下の裁判例を素材としながら、内部告発を契機とした職場いじめと会社の法的責任について解説を行うこととします。

事案の概要

Xは大学を卒業後、昭和45年3月に貨物自動車運送業を営むY社に入社し、勤務していたところ、昭和48年頃、大手運送会社50社が所属する事業者団体においてヤミカルテルが取り決められることを知りました。ヤミカルテルには、路線運賃の収受にあたり認可運賃枠内の最高額の収受などが申し合わせられていたものです。XはC岐阜営業所長およびO副社長に問題の是正を訴えましたが、Y社は具体的な対応は取りませんでした。その後、昭和49年7月にXはヤミカルテル内容をA新聞に告発し、同年8月1日、同新聞でヤミカルテルに関する記事が掲載されました。さらに同時期にXは公正取引委員会等に対しても告発を行い、その後、同委員会はY社を含む運送会社に対し一斉立入検査を行いました。当該検査後、Y社事業者団体は当該申し合わせの破棄を公告しています。

その後、Xは昭和50年1月に東京本部に異動、さらに同年10月、Y社の本社機能の移転に伴い、富山県に所在するY社教育研修所に異動となり、20数年以上、、他の社員とは離れた2階個室に席を配置(なお平成4年6月に教育研修所が移転した後は他の社員と同室になっています)され、研修生の送迎等の雑務しか与えられませんでした。またXは昭和48年以降、昇格していません。  Xはこのような長年の処遇は差別的な不利益取扱いであり、内部告発したことを嫌悪してなされたものである旨、主張の上、Y社に対し民事損害賠償請求を提起しました。

Xはこのような長年の処遇は差別的な不利益取扱いであり、内部告発したことを嫌悪してなされたものである旨、主張の上、Y社に対し民事損害賠償請求を提起しました。

判決内容

請求一部認容(慰謝料200万円、財産的損害 約1047万円、弁護士費用110万円)

①内部告発の正当性

公正取引委員会の立入検査や破棄公告の掲示等の事実によれば、本件内部告発に係る事実関係(ヤミカルテル問題)は「真実であったか、少なくとも真実であると信ずるに足りる合理的な理由があったといえ」、「告発内容に公益性があることは明らかである」。

Xが最初に全国紙のA新聞に告発した点については、マスコミへの外部通報は一般にY社に対し打撃を与える可能性があることから、「労働契約において要請される信頼関係維持の観点から、ある程度Y社の被る不利益にも配慮することが必要である」。これに対しXが副社長、営業所長等へヤミカルテル問題を訴えたのみでは「内部努力としてやや不十分であった」が、本件ヤミカルテルおよび違法運賃収受は会社ぐるみかつ運送業界全体で行われていたものであり、「管理職でもなく発言力も乏しかったXが・・十分な内部努力をしないまま外部の報道機関に内部告発したことは無理なからぬというべきである」。

「告発に係る事実が真実であるか、真実であると信じるに足りる合理的な理由があること、告発内容に公益性が認められ、その動機も公益を実現する目的であること、告発方法が不当とまではいえないことを総合考慮すると、Xの内部告発は正当な行為であって法的保護に値するというべきである。」

②内部告発による不利益取扱いとY社の損害賠償責任

「Y社がXを旧教育研修所に異動させたうえ、2階の個室に配席し、極めて補助的な雑務をさせていたこと、Xには昇格がなかったことは、いずれも、Xが内部告発を行ったことを理由として、これに対する報復として、Xを不利益に取り扱ったものと認められる。また、YのXに対する退職強要行為も、Xが内部告発を行ったことを理由として行われたものと認められる。」

会社の人事権行使は「相当程度使用者の裁量的判断に委ねられる。しかし、このような裁量権もその合理的な目的の範囲内で、法令や公序良俗に反しない限度で行使されるべきであり、これらの範囲を逸脱する場合は違法であるとの評価を免れない。」また、従業員は「人事権が公正に行使されることを期待しているものと認められ、このような従業員の期待的利益は法的保護に値するものと解される。」「従業員は、正当な内部告発をしたことによっては、配置、異動、担当職務の決定及び人事考課、昇格等について他の従業員と差別的処遇を受けることがないという期待的利益を有する」。「使用者は、信義則上、このような雇用契約の付随的義務として、その契約の本来の趣旨に則して、合理的な裁量の範囲内で配置、異動、担当職務の決定及び人事考課、昇格等についての人事権を行使すべき義務を負っているというべきであり、その裁量を逸脱した場合はこのような義務に違反したものとして債務不履行責任を負うと解すべきである。」

Xの内部告発は正当な行為であるから、Y社がXに雑務しか行わせず、昇格を呈して賃金格差を発生させたことは人事権の裁量の範囲を逸脱する違法なものであって、これによりXの期待的利益を侵害したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償責任、および信義則上の義務に違反したことを理由とする債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。 (なお平成4年6月の新研修施設異動後は、他の職員と一緒に仕事を行っており、異動命令等に対する損害賠償請求は不法行為に該当しないとした)。

公益通報者保護法と本判決の位置づけ

平成16年に公益通報者保護法が、同18年4月1日から施行されています。公益通報者保護法の施行によって、我が国でも会社が公益通報を理由とした解雇その他不利益取扱いの禁止など法的保護が実定法上も明確にされました。同法では外部通報事案として、法的保護を行うものとして以下の要件を定めています。

①通報対象事実が生じ又はまさに生じようとしていると思料すること

②不正の目的でないこと

③ ①を信ずるに足りる相当の理由

④次のいずれかに該当すること

ア 事業者内部・行政機関への通報により、解雇その他不利益な取扱を受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合(客観的理由・証拠の存在)
イ 事業者内部への通報により、証拠隠滅、偽造、変造のおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ウ 労務提供先から、内部・行政機関に公益通報をしないことを正当な理由なく要求された場合
エ 事業者内部に書面で公益通報をしたものの、20日を経過しても調査を行う旨の通知がない場合又は正当な理由なく調査を行わない場合
オ 個人の生命・身体に危害が発生し、又は発生する急迫の危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

以上のとおり、公益通報者保護法では、法的要件を比較的厳格に定めているため、外部通報事案によっては同法の救済対象たり得ないものが生じる可能性があります。

これに対し裁判例を見ると、本判決含め内部通報の正当性判断基準はおおむね同法と同様ですが、そのあてはめ自体は事案に応じて柔軟に判断する傾向が見られます。本判決もXはマスコミへの告発前、会社内部での働きかけは副社長、営業所長への問題提起に留まり、判決でも「内部手続きとして十分でない点」と指摘されています。他方、ヤミカルテルが会社および業界全体で組織的に行われていたことや本人の立場などから、内部手続きが不十分といえる本件告発も「無理なからぬというべきである」とし、その他事情を総合評価の上、正当性を肯定しました。公益通報者保護法施行後においても、裁判所は同法を参照しつつも、従来の裁判例に沿った正当性判断を行っており、なお裁判例の動向を注視する要があります。

コメント

本判決自体は専ら公益通報の正当性が争点となりましたが、同事案をみると、外部通報後の会社側対応に大きな問題があったといえます。まず20数年にわたり、他の社員と離れた2階個室に席を配置していますが、これは「職場のパワーハラスメントの類型」のうち「隔離・仲間外し・無視」にあたると思われます。また研修生の送迎等の雑務のみに従事させていますが、これも「業務上の合理性なく、能力や経験とはかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと」に該当し、いずれも職場のパワーハラスメントに該当すると考えられます。正当な内部通報をなした者に対し、会社および上司が解雇その他不当な取扱いをなさないことはもちろん、上記のような会社側対応自体がパワーハラスメントに該当し、許されない点に改めて注意が必要です。

 

著者プロフィール

北岡 大介
北岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士