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厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型

【第47回】
上司において自殺に繋がるような精神的負担を感じていたことを事前に認識していた事実や自殺を予見できた具体的状況があったと認めることはできないとされた事案

結論

B支店長及びC支店長において、亡Aが自殺に繋がるような精神的負担を感じていたことを事前に認識していた事実や自殺を予見できた具体的状況があったことを認めることはできない。

事案の概要

Y銀行S支店で勤務していた亡Aの父Xが、亡Aは、Y銀行における過剰な業務等の結果、うつ病に陥り自殺したとして、Y銀行に対し、不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、損害賠償を請求した事案。

判決のポイント

1.亡Aの自殺の原因について

特に亡Aについて過酷な業務が強いられていたわけではなく、亡Aの上司による部下に対する指導として許された限度を超えた過度に厳しい指導があったわけではないが、亡Aは、平成12年10月、本件推進担当(S支店における投資信託販売の推進担当)に任命され、S支店及び亡Aに課せられた投資信託の販売目標を達成するべく熱心に仕事に取り組んでいたが、思うように販売実績を上げることができず、本件渉外会議において、B支店長から厳しく注意されるなどして、相当の精神的負担を感じており、そのために軽症うつ病エピソードに罹患していたことも1つの原因となって自殺したものというべきである。

2.Y銀行の過失又は債務不履行の有無について

冬季休暇を取った際に引継書を提出せずに仕事を休み、電話連絡もつかなかったという事情はあるものの、その後に亡Aが出勤した平成13年2月15日以降、亡AにはY銀行において把握し得る異常な言動はなく、また、その他に亡Aが軽症うつ病エピソードに罹患していることを窺わせる事情をY銀行において把握していたとも認められず、さらに、亡Aから健康状態等を理由に業務の変更等を求める申し出もなかったことに照らすと、Y銀行において、亡Aの自殺等不測の事態が生じうる具体的危険性まで認識し得る状況があったとは認められないから、Y銀行において、亡Aの精神状態に特段配慮し、労働時間又は業務内容を軽減するなどの措置を採るべき義務が生じていたということはできない。

平成13年2月19日、C次長が亡Aに対しN社に関するファームバンキングサービスの解約について確認した際のやり取り(C次長が、S支店1階の営業室で、亡Aに対し、「N社から、ファームバンキングサービスの解約について、電話で照会があったよ。解約書類は預かっているかい。」と聞くと、亡Aが「はい。」と答えたため、「それなら見せて。」と言ったところ、亡Aは、「分かりました。」と返事をして、営業室から出て行った。)に、特段不適切な点は認められないし、亡Aは、C次長から解約について確認されると突然S支店を飛び出し、そのまま行方不明になり、その3日後自殺に至ったのであるから、Y銀行において、亡Aの自殺を防止するための措置を採ることができたとは認められない。

「A君は仕事上の中のできごとにストレス、悩み等を感じ、なくなったのではないかと思います。」と記載した書面(以下「本件メモ」という。)は、その達成が容易でない仕事や課題を持つ者であれば誰しも一定の精神的負担を感じていることを前提に、事後的にみて亡Aも仕事上精神的負担を感じていたのではないかという推測を表明した趣旨にとどまると解するのが相当であり、しかも、本件メモは、B支店長及びC次長が、亡Aの死が銀行業務に起因するものと認めるように亡Aの父Xらから厳しく求められた結果作成したものであるから、本件メモ等の証拠によっても、B支店長及びC次長において、亡Aが自殺に繋がるような精神的負担を感じていたことを事前に認識していた事実や自殺を予見できた具体的状況があったことを認めることはできない。

コメント

上司の厳しい注意があっても自殺の予見可能性がなければ自殺の損害賠償責任は問われない

本判決は、B支店長の厳しい注意などによる相当の精神的負担を感じ、そのために軽症うつ病エピソードに罹患していたと判断していますが、亡Aに異常な言動や業務の変更等の申し出もなく、自殺等の不測の事態が生じうる具体的な危険性まで認識しうる状況があったと認められないことや、上司から業務に関する確認を受けると突然飛び出してそのまま行方不明となり、その3日後に自殺に至ったという経緯から、Y銀行で亡Aの自殺を防止するための措置を採ることができたとは認められないと判断しました。

また、自殺後に上司らが作成した書面の記載については、遺族らから亡Aの死が銀行業務に起因すると認めるよう厳しく求められて作成したという経緯から、同書面の記載によってB支店長らに自殺の予見可能性があったとは認められないと判断しました。

このように、自殺による損害賠償請求では、自殺が業務と相当因果関係にあるか否かのみならず、自殺について具体的な予見可能性があるか否かが重要な論点となります。

 

著者プロフィール

山岸 功宗(やまぎし よしひろ)
安西法律事務所 弁護士
2006年 弁護士登録