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厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型

【第45回】
上司の発言が業務起因性の判断の際の要素として考慮された事案

結論

T本部長の発言は業務起因性の判断の際の要素として考慮すべきである。

事案の概要

A社のI浄水場所長兼Nサービスセンター長として勤務していた社員Xの妻が、Xが出張先で宿泊していたホテルの窓から飛び降りて死亡に至ったのは、業務に存した過重負荷に起因する精神障害に罹患した結果であるとして、N労働基準監督署長がした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金及び葬祭料の不支給処分の取消しを求めた事案。

判決のポイント

1.I浄水場所長とNサービスセンター長の兼務による負荷

年齢、経験、業務内容、労働時間、責任の大きさ、裁量性等からみて、Xは精神障害を発症もしくはこれを相当増悪させる程度に過重な心理的負荷を業務上負っていたと認めるのが相当である。

2.T本部長の発言の評価

T本部長の発言内容等

A社は、本社において、2日間の日程で、サービスセンター長の研修を行った。同研修には、代表取締役社長ほか役員も多数出席しており、Xも参加した。第1日目の夜、同日の研修終了直後に本社5階で、研修参加者全員が出席する懇親会が開かれた。その席上、T本部長は、懇親会終了のスピーチの際、社長ら役員も含めた参加者全員の面前において、Xのことを「俺が仲人をしたのにXがあり、頭がいいのだができが悪い。」、「何をやらしてもアカン」、「その証拠として奥さんから内緒で電話があり『主人の相談に乗って欲しい。』と言った」、等と発言した。なお、T本部長のスピーチの途中、社長が見かねてスピーチを止めさせようとした。

Xは、懇親会終了後の午後9時45分ころ、妻に電話をかけて、「また死にたなったわ。」と述べて、電話を切った。

翌日早朝、Xは、宿泊先ホテルの窓から飛び降り自殺した。

評価

T本部長の発言は、研修終了直後に本社5階で、役員ら列席の下、研修参加者全員が出席する懇親会の席上行われたものであり、T本部長の発言によりXにかかった負荷は、業務上のものであると解される。

T本部長の発言は、酔余の激励とはいえ、「妻が内緒で電話をしてきた。」等と通常、公表されることを望まないようなプライベートな事情を社長以下、役員や多数のSC長の面前で、暴露するものである上、「できが悪い。」、「何をやらしてもアカン」等と言われた本人であれば、通常「無能呼ばわり」されたと受け取ることもやむを得ないような不適切な発言をしたものというべきである。また、サービスセンター長兼務の負担をB(Xの元上司)に取り合ってもらえなかったXにとって、仲人でもあり、頼みの綱として信頼していたT本部長から、社長や他のサービスセンター長が揃った席で、上記の如き発言をされることの心理的ショックは極めて大きなものであったと解される。

したがって、T本部長の発言は、職場において日常的に見受けられる職場のストレスと一線を画するものといえ、言われた者にとっては、にわかに忘れることの困難な、かつ明らかなストレス要因となる発言であり、社会通念上、精神障害を発症ないし増悪させる程度に過重な心理的負荷を有するものと解される。

そして、このストレスが、Xの精神障害発症後に加わった心理的負荷であったとしても、精神障害の増悪の原因となり、その程度も大きいものであったと認められることからすると、上記心理的負荷(T本部長の発言)を業務起因性の判断の際の要素として考慮すべきであると考える。

コメント

上司の発言が業務起因性の判断の際の要素として考慮されることがある。

本判決は平成19年11月12日に言い渡されたものであり、その後の同23年11月8日付「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」の「既に発病している疾病の悪化の業務起因性」(5頁)において「一般に、既に精神障害を発病して治療が必要な状態にある者…は、病的状態に起因した思考から自責的・自罰的になり、ささいな心理的負荷に過大に反応するのであり、悪化の原因は必ずしも大きな心理的負荷によるものとは限らない。…このような精神障害の特性を考慮すると、悪化の前に強い心理的負荷となる業務による出来事が認められたことをもって、直ちにそれが精神障害の悪化の原因であるとまで判断することは現時点では医学上困難であり、したがって、業務起因性を認めることも困難といわざるを得ない。」との記述があることからすると、T本部長の発言がXの精神障害発症後に加わった心理的負荷であったとしても精神障害の増悪の原因となるとの判示の当否についてはなお医学上の側面から検討を要するかもしれませんが、いずれにしても、上司の発言がその内容及び具体的状況から、社会通念上、精神障害を発症ないし増悪させる程度に過重な心理的負荷を有するものとして、業務起因性の判断の際の要素として考慮される場合があることは留意する必要があると考えます。

 

著者プロフィール

山岸 功宗(やまぎし よしひろ)
安西法律事務所 弁護士
2006年 弁護士登録