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厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 身体的な攻撃型
  • パワハラをした人だけではなく会社の責任が認められた裁判事例
  • 同僚同士のパワハラの裁判例

【第40回】
同僚間の暴行について使用者に損害賠償責任を認めると共に、同暴行に起因する欠勤中の解雇を無効とした例

結論

・業務の分担を巡るやりとりに起因した暴行は業務の執行につきなされたものであり、加害社員と共に使用者も損害賠償責任を負う。
・被害社員の欠勤中になされた解雇は解雇理由がなく、また、信義則違反であり無効。

事案の概要

被害社員X(女性)と加害社員乙(男性)はY社の同じ課に所属していたところ、社員乙が社員Xを殴打し(以下「本件暴行」という。)、顔面挫創・頸椎捻挫の傷害を負わせ(以下「本件傷害」という。)、またその後継続する頸部・腰部痛や手足のしびれなど(以下「本件各症状」という。)があるとして、社員Xが慰謝料や治療費等の損害賠償をYと社員乙に求めるとともに、本件暴行から約2年半継続した休業中になされた解雇が無効であるとして地位の確認と賃金の支払いを求めた事案。

判決のポイント

1.使用者責任の成否

社員乙は課の印刷機のトナーを発注する様社員Xから命令口調で言われたことを端緒として本件暴行に至っているところ、これはY社における備品管理の業務分担に密接に関わるものであるし、社員乙が日頃から意見を押し付けられるなどとして社員Xに不満を抱いていたことも本件暴行の一つの原因だが、これも業務指示の在り方という業務に起因したものであるから、本件暴行はY社の業務執行につき加えられたものであり、Y社は社員乙と連帯して損害賠償責任を負う。

2.損害賠償請求をしない旨の和解の成否

本件暴行当日、部長Aの立会の下応接室にて社員乙が謝罪し、社員Xがこれからもよろしくお願いします等と述べた上、翌日所属部の従業員の前で部長Aから解決した旨の報告があり、この際社員Xが異議を述べなかったことをもって、双方に何ら請求をしないとの示談が成立したとのY社の主張については、当時社員X自身治療が長引く認識はなく、その場では損害賠償が話題になっていなかったことから、損害賠償を請求しない旨の和解が成立したと評価できない。

3.損害

慰謝料60万円。

また社員Xは本件暴行に起因するとして本件各症状等様々な傷病に係る治療費を請求しているが、傷害は本件傷害に留まり、また頸椎捻挫が数ヶ月も治癒しないというのは稀な例であって、心因的なものが大きく作用しているところ、心因的な症状に対する治療を全て加害者の負担とすることは損害の公平な分担という理念に沿わないが、社員乙が両者の仲直り後は謝罪することもなく、社員Xの感情を逆撫でする書面を送ったこと(※代理人弁護士名での社員Xの主張する本件暴行に至る経緯が事実と異なることや傷害があるという言い分を疑う内容の書面)やY社が途中から事務的な対応に終始したことが、精神的負担を強めたことが容易に推認できるとして、6割に相当する治療費の負担義務があるとした。

4.解雇の有効性

Y社は社員Xが①正当な理由なく長期欠勤を続けた②Y社に多数の診断書を送り、社員Xの代理人等との面談を強要し、電話や書面送付を繰り返すなどY社の業務を混乱させた③労災手続きに協力する様強要し、実際に申請してY社を労基署の事情聴取に応じさせて混乱させた④社員乙を刑事告訴した、ことが就業規則の「著しく職務怠慢か又は職務成績劣悪でその他会社又は同僚の迷惑となる時」に該当する等として解雇したが、①Y社は社員Xを当面出勤扱いとした後、休職処分としているのであるから、無断欠勤ということはできない②社員Xには実際に頸部痛等が存在し、その旨(使用者として責任のある)Y社に対し訴えたり診断書を送付したりしたことはむしろ当然のことであり、面会の求めも強要等に当たるとまでは言えず、社員Xやその代理人が治療費の支払い等についてY社と連絡を取ることも違法ではない③労災申請への協力を求めたことや申告したことは違法ではく、Y社が労基署の事情聴取に応じることは当然の義務である④社員乙が社員Xに本件傷害を与えた以上社員乙を告訴したことは非難できないから解雇理由に該当せず、また社員Xの欠勤は純粋に私的な病気による欠勤ではなく、治癒をまって復職させるのが原則であり、治癒の見込みや復職の可能性等を検討せず、直ちに解雇することは信義に反するから、解雇は権利の濫用として無効。

但し、社員Xは原職に復帰できる病状であるかは疑問であり、債務の本旨に従った労務の提供があるとはいえないから、賃金請求は認められない。

コメント

使用者には丁寧な事後対応が求められる

本件は、従業員が本件暴行を加えたことによる使用者責任というだけでなく、実際に事件が発生した後の使用者の対応が取り上げられ問題となった事案です。

まず損害賠償との関係では、本件暴行後社員Xが長期の休業に入り、Y社に対する多様な傷害の診断書の送付や、電話や面談の求めが繰り返される中、途中から、問合せは弁護士にするよう回答したり、Y社に責任がないとして社員Xの要求を一切拒否する等の事務的な対応を取ったことが、社員Xの精神的負担を高めた等として治療費の一部負担が認められる結果に繋がっています。

また、解雇との関係でも、労災申請や刑事告訴など、被害者である社員Xの法的権利の行使に過ぎない行為を取り上げて解雇した点は解雇理由に該当しないとされています。

上記社員Xの言動に対し、Y社としても対応に苦慮していたことは推測されるものの、業務中に本件傷害を負ったことは事実として確認されているのであり、使用者としてまずは病状を慮りつつ、社員Xの権利の行使の範囲である以上は、社員Xの言動により業務の負担が増えたとしても、ひとつひとつ丁寧に対応することが求められていたといえましょう。

 

著者プロフィール

加藤 純子(かとう じゅんこ)
安西法律事務所 弁護士
2008年 弁護士登録