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厚生労働省

「パワハラ基本情報」裁判例を見てみよう

  • 身体的な攻撃型
  • パワハラをした人だけではなく会社の責任が認められた裁判事例

【第39回】
暴行及び謝罪強制が不法行為と判断された事案

結論

暴行及び謝罪強制は不法行為に当たる。

事案の概要

家電量販店で、雇用先が通信会社から受託した携帯用電話機の販売業務に従事していたAが、雇用先の従業員で教育担当のJ及びI並びに家電量販店の従業員Dから暴行及び謝罪の強制を受けたとして、雇用先及びその従業員J及びI、家電量販店及びその従業員D並びに通信会社に対して損害賠償の支払いを求めた事案。

判決のポイント

1.Aに対する暴行

雇用先の従業員Jが会話練習の際、Aに対し、怒号を発して、2つの机越しに、販売促進用ポスターを丸めた紙筒様の物で頭部を強く約30回殴打した後、同紙筒が破損したため、机上のクリップボードを取り、その表面及び側面を使って、ある程度力を込めて更にAの頭部を約20回殴打した(本件第1暴行)。

家電量販店の従業員Dが、Aの商品取り置きに関する問題について激昂し、間髪を入れず、Aの右横からAの大腿の外側膝付近を3回にわたって強く蹴った(本件第2暴行)。

雇用先の従業員Iが、AのIに対する入店時間に関する虚偽の電話連絡について怒鳴りつけて叱責するとともに、暴行を行った。この暴行は、左頬を手拳で数回殴打し、右大腿部を膝を使って蹴り、頭部に対して肘や拳骨で殴打する暴行が合計約30回に及んだ(本件第3暴行)。Aは、本件第3暴行を受けた後、Iの便所掃除をさせる等の発言に嫌気がさして退職を決意した。

雇用先の従業員Iが、Aの退職を翻意させようとしたが、Aがこれに全く応じず、話し合いを打ち切るべく「こんな話をしにここに来たんじゃない。」と言いながらソファーから立ち上がったことに激昂して怒号を発し、その襟首を掴んで、Aをソファーの上に四つん這いの状態にさせ、手拳や肘で殴打したり、足や膝で蹴るという暴行を合計約30回にわたって加えた(本件第4暴行)。

Aは、雇用先の従業員Iの指示で、通信会社で、通信会社の従業員であるL及びMに対し、3月13日に遅刻したこと及び入店時間について虚偽の連絡をしたことについて謝罪した(本件謝罪強制)。

2.家電量販店の使用者責任の有無

家電量販店は、家電量販店における業務に関連して行われた本件第2暴行について、Dの使用者として、使用者責任を負う。家電量販店が、Aの教育について雇用先の教育を担当する従業員を指揮監督していた事実も、本件第1、第3及び第4暴行並びに本件謝罪強制の際、J及びIを指揮監督していた事実も認められない。
⇒家電量販店は本件第2暴行についてのみ使用者責任を負う。

3.通信会社の使用者責任の有無

通信会社が、本件第1、第3及び第4暴行並びに本件謝罪強制の際、J及びIを指揮監督していた事実も、他にJ及びIを指揮監督していた事実も認められない。
⇒通信会社は本件各暴行(本件第2暴行を除く。以下同じ。)や本件謝罪強制について使用者責任を負わない。

4.家電量販店及び通信会社の安全配慮義務違反の有無

本件第1、第3及び第4暴行の内容、それらが行われた具体的状況、そこに至る経緯、具体的な予見可能性の有無、並びに家電量販店及び通信会社とJ及びIとの関係等を考慮すると、上記各暴行に関して、Aの身体等に対する危険を防止する義務があったとまで認めることはできない。本件謝罪強制についても、IがAを通信会社に赴かせ通信会社の従業員L及びMに謝罪させたという行為の内容、その行為の行われた場所及びIの意図からすると、家電量販店に本件謝罪強制に関して、Aの身体等に対する危険を防止する義務があったと認めることはできない。通信会社においても、IがAを通信会社に赴かせた点はもとより、AがIにより謝罪を強制されたこと自体についても、これによる危険を防止することが、通信会社の安全配慮義務の内容に含まれると認めることはできない。
⇒本件各暴行や本件謝罪強制について家電量販店及び通信会社に安全配慮義務違反はない。

5.雇用先の代表者の共同不法行為責任の有無

雇用先の代表者であるGは、雇用先事務所内で本件第3暴行を見ており、暴行を早期の段階で制止する余地が十分にあったにもかかわらず、これを制止しなかった。そして、Gが雇用先の代表者の立場にあり、本件第3暴行が雇用先の事業を遂行するために行われたことをも考慮すると、Gが本件第3暴行を制止しなかったことは、明らかに違法な権利侵害行為に当たる。

コメント

直接の加害者以外の者も損害賠償責任を負いうる。

暴行は不法行為に当たり、直接の加害者以外の者も、使用者責任、安全配慮義務違反、共同不法行為により、損害賠償責任を負うことがあります。

使用者責任の要件は、使用者と不法行為を行った直接の加害者との間に指揮監督の関係があり、暴行が使用者の業務に関連して行われたことです。判決は、本件第2暴行の直接の加害者Dの使用者である家電量販店について、当該暴行が家電量販店の業務に関連して行われたことを認定して、使用者責任を肯定しました。他方、通信会社は、本件各暴行及び本件謝罪強制の直接の加害者J及びIとの間に指揮監督の関係がないことを認定して使用者責任を否定しました。

次に、安全配慮義務違反が認められるためには、従業員の生命・身体に対する危険の具体的な予見可能性が必要であると考えられています。判決は、本件各暴行及び本件謝罪強制について、Aの身体に対する危険について家電量販店及び通信会社には具体的な予見可能性があったとは認められないと判断して、安全配慮義務違反を否定したと考えます。

最後に、雇用先の代表者であるGとAとの間には直接の契約関係はありませんが、自社の従業員であるIがAに対してGの目の前で本件第3暴行を加えており、早期の段階で制止する余地があったことから、条理上、GにIの本件第3暴行を制止するべき注意義務があったとして、共同不法行為責任を肯定したと考えます。

 

著者プロフィール

山岸 功宗(やまぎし よしひろ)
安西法律事務所 弁護士
2006年 弁護士登録