あかるい職場応援団
厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型
  • 人間関係からの切り離し型

【第4回】
部下の嫌がらせ・会社調査とパワハラ

はじめに

一般にパワーハラスメントは管理職が部下に対して行うものと理解されていますが、上司(特に中間管理職)が部下との人間関係で悩むことも少なくありません。時には部下が上司の言動について、会社・取引先等に様々な告げ口をなし、後日、会社等から同人に対し調査がされ、責任を問われることがあります。このように部下の言動や会社調査等によって、管理職本人が精神障害(うつ病)を発病し自殺した場合、同人の遺族に対し労災保険給付が支給される例もあります。以下では同問題が争われた裁判例を素材に解説を行うこととします。

事案の概要

XはY社に入社後、一貫して、同社営業第2部の給食事業部門に配属されており、給食事業料理長に就任した後も、新宿第2店員食堂等の店長を兼務していました。そしてXは専ら給食事業料理長として各店舗を巡回し、店舗の調理面からのチェック、指導、メニューの決定等を行っていました。  同社新宿第1店員食堂で勤務する従業員Aは、処遇に不満を持ち、平成9年2月、Xら社員が次の不正行為を行っている旨の内容を含んだ、同社員を中傷するビラを親会社Z社の労働組合に持ち込みました。

①Xが食券を再利用して売上げを着服している
②Xが同人の管理する金庫から1万5,000円を盗んだ
③Xが部下の女性職員に対してセクハラをした
④Xの部下がZ社の酒売場倉庫のビールを盗み、これをXらが飲んだ 等

これを受けて、Y社はXを含む職員らを対象とする調査(上記④について書かれたビラはY社調査担当者の手に渡らなかったため、④についての事情聴取は行われなかった)を行い、不正が認められた職員の一部(Aを含む)に対し懲戒処分を行いました。その一方、Xの不正行為については、事実関係は認められず懲戒処分はされませんでしたが、Y社はZ社との関係もあり、Xに営業第2部長に対する始末書を提出させ、兼務していた食堂店長職を解きました。

その後、平成10年3月になって、Aは雇用契約更新に当たり、再度、親会社Z社上層部に対し、前記と同様のビラを送付して、同問題を蒸し返しました。その結果、上記④の内容についてもY社が知るところとなり、Xに対してE部長等が再び事情聴取を行ったところ、Xはビール窃取を否定する一方、職場で酒を飲んだ事実は認めました。Y社はZ社との関係悪化等を背景に、Xを給食事業部から、レストラン事業部へ配置転換し、当面はY社直営のイタリアレストランで研修するよう命じました。

Xは同年4月24日、自宅を出て、配転先店舗に出勤しないまま所在不明となり自殺しました。これに対し、遺族がXの自殺は業務による心理的負荷により精神障害を発病したことが原因であると主張し、労災(遺族補償給付等)の申請を行ったところ、渋谷労基署長は不支給決定処分にしました。本件は、当該不支給決定処分の取消を求め、遺族が提訴したものです。

判決内容

遺族補償給付不支給決定処分の取消

Xは遅くとも平成10年3月下旬ころには、うつ病を発症していたと認めるのが相当である。

平成10年3月ころ生じた本件ビラ問題についてE部長等が行った事情聴取は、約2時間にわたり逐一詳細にXに尋ねており、かつ、その質問内容も本件ビラに直接的に記載されていないものにも及んでいる上、その態様も相当に糾問的であったといわざるを得ない。そして、Xは自分が給食事業から外されることを予想しているが、事情聴取時のE部長等の言動によりZ社との関係悪化の責任を感じさせられていることからすれば、職種、職場における立場、経験が類似の労働者からみても、そのように受け止めることができるものであったと認めるのが相当である。

加えて、Aが本件ビラをZ社の上層部(社長)あてに送付したり、家族への脅迫を疑わせる行動を(間接的にでも)したことや、本件ビラ問題がY社とZ社の関係悪化の要因になったことは、前記事情聴取と相互に関連するものであって、一体となってXに心理的負荷を与えたと認められる。

厚生労働省通達による「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(平成11年9月14日付け基発第544号)(注)をふまえ検討してみると、平成10年3月ころ生じた本件ビラ問題についてXがE部長等から事情聴取を受けたことは、判断指針における「会社で起きた事件について責任を問われた」に該当し、この出来事に伴う変化として、自らが長年従事していた給食事業を外されるという仕事の質の変化が客観的に予測される事態であったこと、Aの言動による「部下とのトラブル」、Z社との関係悪化の原因となった「顧客とのトラブル」とも一体となってXに心理的負荷を与えたと認められることから、その心理的負荷の総合評価は「特に過重」なものとして「強」であるというのが相当である。

以上によれば、Xの業務と同人の精神障害の発症及び自殺との間に相当因果関係の存在を肯定することができる。
(注)現在は、判断指針に代わり新しく策定された「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平成23年12月26日付け基発1226第1号)を用いて精神障害の業務上外を判断しています。

精神障害の労災認定と部下とのトラブル・社内調査

本判決では、業務による心理的負荷の強度の評価として、もっぱらY社の事情聴取により「会社で起きた事故、事件について、責任を問われた」点を取り上げ、事件の内容、関与・責任の大きさ及び自らが長年従事していた給食事業を外されるという仕事の質の変化等を重視しています。また部下Aがビラを親会社に送付したり、Xを脅迫する等の行為が「部下とのトラブル」、親会社とY社の関係悪化が「顧客とのトラブル」に該当するとし、これが一体となってXに心理的負荷を与えたこと等を総合考慮の上、業務による心理的負荷が強いと評価し、Xに発病したうつ病を業務上の事由による疾病であると認めたものです。

コメント

本事件のように中間管理職たる上司は会社上層部、取引先、さらには部下との関係で板挟みとなり、思い悩むことがあります。会社側が必要に応じて、当該上司を支援できれば良いのですが、残念ながら社内調査・責任追及に終始してしまい、中間管理職を追い詰めることが少なからずあります。管理職層へのストレスが高まる事が予想される中、気軽に相談できる窓口の設置など管理職層に対する支援の充実を検討すべきときを迎えているように思われます。

 

著者プロフィール

北岡 大介
北岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士