あかるい職場応援団
厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 過小な要求型

【第37回】
無効な出向命令を維持して就労させたことや出向中の人事考課が不法行為と判断された事案

結論

無効な出向命令を維持して就労させたことは不法行為に当たる。
出向中の人事考課は人事権の甚だしい濫用として不法行為に当たる。

事案の概要

飲食店経営等を主たる目的とするY社がその従業員Xに対して発した配転命令が同配転命令の有効性等が争われた別件訴訟の高裁判決(以下「別件高裁判決」という。)によって不法行為に当たるとされたにもかかわらず、出向命令を維持して過酷な業務(冷凍庫内における仕分け作業)に従事させたなどとして、慰謝料の支払いを求めた事案。

判決のポイント

1.無効な出向命令を維持して就労させたことの不法行為該当性
別件高裁判決によって出向命令が人事権の濫用として無効であり不法行為に当たるとの判断が示された以降、従業員Xはそれまで以上に強い精神的苦痛を甘受せざるを得ない状況の下で出向先における就労を強いられた。
 ⇒別件高裁判決後出向解除までの期間、従業員Xを出向先で就労させたことについて、Y社は、従業員Xに対する不法行為責任を負う。

2.出向中の人事考課の不法行為該当性
労働契約関係において、使用者が人事管理の一環として行う考課ないし評定については、基本的には使用者の裁量的判断で行うべきものであり、原則として違法と評価されることはない。しかしながら、使用者が、嫌がらせや見せしめなど不当な目的の下に特定の労働者に対して著しく不合理な評価を行った場合など、社会通念上とうてい許容することができない評価が行われたと認められる場合には、人事権の甚だしい濫用があったものとして、不法行為法上違法の評価をすることが相当である。
Y社が作成した従業員Xに関する考課表は、特段の改善点の指摘がないにもかかわらず、一貫して他の従業員と比較して異常に低い評価点数しか付けられていない。そればかりでなく、大きく減点される項目が考課表ごとに一貫していなかったり、従業員Xの勤務実態を直接把握できない2次考課者が10点以上も1次考課の考課点数を下げたりするなどしており、従業員Xに関する考課表がおよそ正当な人事考課を行う意図を持って作成された考課表とは認め難い。かえって、例外なく、考課表に記載された2次考課の点数は、1次考課の低い点数を追認した点数か、更に低下させた点数でしかない事実、出向中に従業員Xに対して具体的な改善指導が行われた形跡がない事実に照らすならば、Y社は、従業員Xについて初めから低い評価にする意図を持って、形だけの人事考課を行っていたとしか考えられない。このことに、従業員Xが東京への異動に対して難色を示すや否やY社が法的根拠なく出向命令を発した事実、従業員Xが出向期間中に勤務態度について上司から注意を受けたり、始末書の提出を求められたりしたことはなく、かえって作業の効率化に貢献したにもかかわらず一貫して低い評価を継続させた事実を考慮するならば、出向期間中に従業員Xに対して行われた異常に低い評価は、Y社の意に沿わない言動を行った原告に対する嫌がらせないし見せしめの目的を持ってなされたものと認めるのが相当である。
 ⇒出向中の人事考課は人事権の甚だしい濫用として不法行為に当たる。

3.従業員Xの退職との因果関係の有無
従業員Xは、Y社による不当な低査定により退職を余儀なくされ、精神的苦痛を受けたとして、この点も不法行為として主張するが、長期間にわたる不当な低評価によって従業員Xが不遇感を抱き、従業員Xの職務に対する意欲が削がれていったであろうことは想像に難くないものの、従業員Xがその自発的意思で退職の意思表示をしたことは当事者間に争いがなく、Y社は従業員Xに対して直接に退職を求める行為には及んでいない。
 ⇒Y社の行為と従業員Xの退職との間に相当因果関係があると認めることはできない。

コメント

不当な目的の下に行った著しく不合理な評価は不法行為となりうる。

判決は、人事考課には使用者の裁量が認められ、原則として違法と評価されることはないとしながらも、不当な目的の下に著しく不合理な評価を行った場合などは、人事権の甚だしい濫用として不法行為に当たると判示します。

その上で、判決は、特段の改善点の指摘がないのに他の従業員に比べて評価が低いことや従業員Xの勤務実態を直接把握していない2次考課者が1次考課の点数を大きく下げていることなど、従業員Xに関する人事考課それ自体についての不合理性を指摘するとともに、無効な出向命令が発せられた事実や従業員Xの勤務態度に特に問題がないのに一貫して低い評価が行われていることも合わせ考慮して、従業員Xに関する人事考課が嫌がらせないし見せしめという不当な目的をもってなされたもので不法行為に当たると判断したと考えます。

一般に、人事考課には使用者の裁量が認められると考えられていますが、人事考課によるトラブルを防止するためには、会社側からすれ嫌がらせ目的の不合理な評価がなされていないかの再確認が必要でしょうし、社員の側からすれば嫌がらせ目的ではないか等の疑問があれば会社に人事考課の理由を確認してみることが重要です。

 

著者プロフィール

山岸 功宗(やまぎし よしひろ)
安西法律事務所 弁護士
2006年 弁護士登録