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厚生労働省

「パワハラ基本情報」裁判例を見てみよう

  • 過小な要求型

【第34回】
客室係から厨房洗い場係に配置転換する旨の配転命令が不法行為と判断された事案

結論

違法な配転命令で不法行為に当たる。

事案の概要

旅館を経営するYが従業員仲居として雇用していたXに対して客室係から厨房洗い場係に配置転換する旨の配転命令を発したことにつき、XがYに対し、Yの違法な配転命令等によって退職せざるを得なくなったなどとして、慰謝料の支払いを求めた事案。

判決のポイント

1.職種の特定の有無(Xの承諾の要否)

Xの職種が客室係に特定(限定)されていたと認めることはできない。

Yの就業規則には「従業員の体力、体質、技能、経験、勤務成績等を勘案して適正な配置を行う。」、「従業員は会社が業務の都合で転勤を命じ、または職場の変更を命じた場合には、正当な理由のない限りこれに従わなければならない。」との規定がある。
 ⇒Xの承諾がないことを理由として配転命令が違法であるとすることはできない。

2.業務上の必要性の有無

Xは客室係従業員の中では最低の評価を受けたりする等、あまり芳しい評価を受けていなかった。しかし、そのことから直ちにYの客室係業務の適正な遂行が妨げられるほどにXの執務態度が劣悪であったということはできない。

YはXの執務態度の劣悪さを示す具体例として、Xが4組14名の接客につき1人では担当できないとして補助者を求めたことを挙げるが、通常客室係の接客する人数は9名前後であり、原告の要求は無理からぬ所がある。また、2組8名の接客予定のXに対する追加割当につき補助者を求めて追加割当を拒絶したことを挙げるが、当日に接客数10名でも補助者が付いていた客室係がおり、一概にXのわがままと決めつけることはできない面がある。加えて、客室係に余剰人員があったことや、厨房洗い場の人手が不足していたことを窺わせる証拠もないことに照らせば、Xを客室係から厨房洗い場係に配転しなければならない差し迫った業務上の必要性があったものとは認めがたい。

職種は特定されていないとしても、客室係と厨房洗い場係とは明らかに業務内容や勤務形態が異なっており、配転命令を受けたXからすれば、客室係として失格との烙印を押されたに等しいものと受け止めることは容易に想像できることにも鑑みると、Yのした配転命令はXにそのような精神的ショックを与え、ひいてはXをYから追放しようとしてこれを行ったものと推認されてもやむを得ない。
 ⇒Yのした配転命令は、その業務上の必要に基づくものとは認め難く、違法無効な配転命令であったと認めるのが相当である。

コメント

業務上の必要性の乏しい配転命令は嫌がらせ目的と推認されて不法行為となりうる。

一般に、配転命令の有効性については、就業規則等に配転命令の根拠があるか、あるとしても配転命令が権利濫用に当たらないかが論点となります。

本件では、配転命令の根拠となる就業規則の規定があり、Xの職種が客室係に限定されていたわけでもないため、配転命令が権利濫用に当たるかが最大の争点となりました。

配転命令が権利濫用に当たるかどうかは、業務上の必要性があるかどうか、業務上の必要性があるとしても、不当な動機・目的をもってなされていないか、配転命令が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものでないかによって判断されます(東亜ペイント事件・最高裁昭62.7.14第二小法廷判決)。

権利濫用に当たる配転命令が当然に民法709条の不法行為となるわけではなく、損害賠償責任を負わせるだけの違法性が必要ですが、これについては、被侵害利益の性質と侵害行為の態様との相関関係から判断されます。

判決は、まず、Yの主張する配転命令の理由に説得力が乏しいことに加え、客室係に余剰人員があるわけでもなければ、厨房洗い場係に人手不足があるわけでもないことから、業務上の必要性が乏しい配転命令だと判断します。次いで、客室係と厨房洗い場係の業務内容や勤務形態が明らかに異なることから(なお、請求原因事実からXは入社当初から約5年6か月にわたり客室係として勤務していたことが窺われます。)、配転命令を受けたXが大きな精神的ショックを受けることを推認します。業務上の必要性が乏しく、これによりXが大きな精神的ショックを受ける配転命令であることから(非侵害利益の性質の観点)、この配転命令が嫌がらせ目的でなされたと推認して(侵害行為の態様の観点)、Yのした配転命令が不法行為に当たると判断したと考えます。

一般に、配転命令における業務上の必要性は「企業の合理的運営に寄与する」点があれば足りると考えられていますが、配転命令によるトラブルを防止するためには、会社側からすれば今回の配転命令の理由をきちんと説明できるか(嫌がらせ目的は含まれていないか)の再確認が必要でしょうし、社員の側からすれば嫌がらせ目的ではないか等の疑問があれば会社に配転命令の理由を改めて確認してみることが重要です。

 

著者プロフィール

山岸 功宗(やまぎし よしひろ)
安西法律事務所 弁護士
2006年 弁護士登録