あかるい職場応援団
厚生労働省

「パワハラ基本情報」裁判例を見てみよう

  • パワハラと認められなかったもの・パワハラを受けた人にも問題が認めれた裁判例

【第27回】
先輩従業員からパワハラを受けたとして会社に慰謝料の支払いを求めた事案

事案の概要

被告(会社)の元従業員である原告が、会社内の先輩従業員から指導の名の下に暴言、暴行等のパワーハラスメントを受けたとして、会社に対し、不法行為又は労働契約上の安全配慮義務違反に基づき慰謝料の支払いを求めた事案。

判旨

(1) 原告の主張

原告は、先輩従業員Dから以下のパワハラを受けたと主張した。

Dが後輩のミスなどの責任を転嫁し、お前の能力が低い、段取りが悪いなどと罵って人格を非難した。

Dのパワハラによって2名が入社後まもなく退社したことについて、原告のせいで辞めたかのような責任を転嫁する発言をした。

Dは原告の作業中に強引に割り込み、原告の作業を後回しにさせた。その結果、客を長時間待たせることになったことについて、「お前の作業が遅いから客に文句言われたやないか」と原告を叱責した。

原告はDから徹夜での作業を命じられた上、翌日も通常通り勤務するよう命じられた。Dは「お前の仕事が遅いから、お前がやらなあかん作業を俺がせなあかんようになったやないか。」と原告を罵り、謝罪を要求した。

原告は、自分の休みの日に予定されていた作業について、その前日に引継ぎノートに記入してDに引き継いだが、休み明けに出社するとDは作業をやっておらず、「書いてあることが分からんから何もやってへん」と言いがかりをつけられた。

Dが工場の実質的責任者となった以降は、Dは他の従業員に無理な作業日程での作業を要求し、超過勤務を余儀なくさせた上、作業が遅いとなじった。

Dは、腰痛を患っている派遣社員に対し作業を継続させた上、原告に対し、「お前のせいでぎっくり腰になったやないか」と罵声を浴びせた。

Dは、自身の指示に対し、安全性の観点などから意見が出されても、「口答えするな」と怒鳴りつける、原告が客に商品を勧め受注しても、「余計なことを言うな」となじる、原告がDの意見に反対したところ「お前、誰に言うてんのや。ごちゃごちゃ言わんと早よやれ!」と怒鳴りつけるなどした。

原告が作業について提案したところ、Dは「そんなん過剰整備じゃ。俺の見積が気に入らんのか」と激昂し、ブレーキパッドを投げつけるなどの暴力をふるった。

Dは、しばしば原告がしたミスと決め付け、仕事上のミスや不手際の責任を原告に転嫁した。

さらに、原告が被告代表者に対し、Dのパワハラをやめさせるよう複数回にわたって申し入れたが、被告会社は何ら対策を講じず、かえって被告代表者は「君は協調性がない。上司の言葉は神様の言葉に等しいから素直に聞き入れろ」と原告を非難し、我慢するよう要求し、「頭を冷やせ」と強制的に2日間休業させることさえあった、と主張した。

(2)判断内容

原告の上記主張に対し、裁判所は、ア、イ、ウ、キ及びコについてはこうした事実が存在したという証拠はないと認定した。エについては、原告の重大なミスにより、原告が徹夜で作業を行ったことが認められるが、Dから明示又は黙示の残業命令があった事実は認められないとし、またDの発言が仮にあったとしても、原告のミスにより他の従業員にしわ寄せが及んだという事実を伝え反省を促すことは、必ずしも業務上の指導として不当なものとはいえないと判断した。オについては、引継事項を誰も実行しないという被告側の不手際があったというのみで、何もしていない旨述べたとしても、パワーハラスメントにあたらないと判断した。カについては、原告以外の人間に対する行動は原告に対する不法行為や安全配慮義務違反を構成しないと判断した。クについては、原告とDの意見が違うことは認められるが、原告の意見が正しくDの意見が間違っていると断定する根拠もなく、原告はDから指導を受ける立場にあり、Dの指示に従うべきであってハラスメントにはあたらないと判断した。ケについては、Dと原告の意見が違うに過ぎず、Dはブレーキパッドを投げた事実を否認する上、原告は証人尋問でDの言動についての供述を変遷させており信憑性に乏しく、ブレーキパッドを原告に投げた証拠はないとしてパワハラを認めなかった。

さらに、原告が被告会社に複数回にわたり訴えた点や、その過程でかえって協調性がないなとど言われたという点や、休業を強制されたという点についても、原告が被告会社に求める措置が具体的に示されなかったこと等から被告の対応が不法行為を構成するとは認めがたく、また、被告の発言についても、そのような証拠はないと判断した。

(3)結論

以上のとおり、原告が主張した多くの主張について、証拠がないとし、また事実があったと認定した主張についても、不法行為や安全配慮義務違反を構成するとは認めがたいと判断し、パワハラについて原告の請求を退けた。
(なお、本件ではパワハラのほかに未払賃金も請求されているが、これについては請求の一部が認められた。)

コメント

本件では、事実関係における原告と被告の主張が激しく対立しました。判決では原告が主張したパワハラの事実は、そのような事実があったという証拠は原告の陳述のみで、他に客観的な証拠がないという理由で認められませんでした。

パワハラやセクハラの裁判では、労働者の陳述以外に明確なハラスメントの証拠がないことが多く、本件はまさにこうしたハラスメント裁判の難しさが現れた結果とも言えるでしょう。

事実認定の難しさは裁判の場だけでなく、労働者から使用者に対してハラスメントの申告があり、事実関係を調査する場合にも問題となります。

使用者としては、両当事者の言い分や周りの関係者などから事情を聴取し、どのような事実があったのか慎重に検討することが求められるといえます。

 

著者プロフィール

石上 尚弘(いしがみ なおひろ)
石上法律事務所 弁護士
1997年 弁護士登録 石上法律事務所開業