あかるい職場応援団
厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型
  • 個の侵害型
  • 加害者についての処分についての裁判例

【第24回】
同じ会社の社員からパワハラを受けた事案

事案の概要

会社員である原告が、同じ会社の社員であった被告からパワハラなどを受けたとして、被告個人に対し、慰謝料を請求した事案。

判旨

被告は原告の直属の上司ではないものの、グループ会社内の役員に就任する予定であるなど、原告・被告両人の勤務する会社(以下単に「会社」という。)内で重要な立場にあると認識されており、原告より優越的な地位にあったと認定した上で、被告がその優越的な地位を利用して原告にパワハラを行ったとして、慰謝料200万円の支払いを命じた(請求額は300万円)。

(1)優越的な地位

被告は、原告の直属の上司ではなく、入社日も原告と2か月しか違わなかったが、会社内ではグループの資金調達を行うという重要な役割を期待され、グループ会社の役員に就任予定であったことから、会社内における立場は原告よりはるかに上であった。被告は、原告に対し、日常的に業務を行うよう指示していた。

これらの事実から、被告は原告の上司とはいえないものの、実質的に原告を指揮命令できる立場にあったといえ、原告に対し優越的な地位にあるとされた。

(2)パワハラの内容

判旨は、被告が原告に対して行った以下の行為は、原告の人格権を侵害するパワハラであると認定した。

  • 業務上の必要がないのに、深夜に電話をかけ、長時間にわたることがあった。
  • 被告が会社とは別に経営する法人の領収証の整理という、会社の業務とはいえない指示を行った。原告が、月ごとに領収証を並べ替えるところまでは行ったが、パソコンへの入力作業を行わなかったところ、原告を怒鳴りつけた。
  • 原告のお茶出しのタイミングが遅い、と他の役員や社員の面前で原告を非難し、「自己愛が強い」「子宮でものを考えている」「不要な人間なのに会社にいられることに感謝していない」などと怒鳴りつけた。
  • 原告や原告の上司、同僚らに対し、「怠け者は嫌いです。」「貴女はどんなに頑張っても秘書業務では秘書に勝てません。」「彼女の会社での行動は、すべて女性のそれであり、注意力も業務運営上のそれも、子宮に従っています。」というメールや、原告には意欲、能力が欠けており、まずそのことを申し訳ないと感じる必要があるというメール、「彼女のタスクは、会長と会長の奥様と楽しく毎日を過ごしてくれることです。これならば、グループ経営の阻害にはなりません。」などのメールを送った。
  • 原告のタクシー手配の方法に激高し、同僚らの面前で原告を激しく罵倒した。
  • 中華料理店において、役員、同僚らのいる前で、「秘書として能力がない。」「お前はいくら稼いでいるのか、今まで会社にいて何をしてきたのか具体的に言え。」「秘書は別の者に変えればいい、会社に勤められていることを感謝しろ。」「グループを再生したらお前はもう首だから会社に来るな、明日から辞めてしまえ、もう目障りだからいないでくれ、幸せな結婚をするために会社を辞めた方がいい。」などと述べて原告を激しく叱責した。

コメント

本件において、パワハラの行為者である被告は、原告の直属の上司ではありませんでした。入社した日も、わずか2か月の違いしかなく、先輩、後輩といった関係でもありませんでした。もっとも、被告は一社員であったとはいえ、会社内でグループ再生などの重要な役割を期待されて入社し、グループ会社の役員に就任するなど、単なる社員とは全く異なる立場にありました。被告は、このような立場を背景にして、原告を自分の秘書・アシスタントとして扱っており、実質的に指揮命令できる関係でした。

このように、上司と部下とは言えない関係であっても、職場の中で優越的な地位にある者がその地位を利用して行う行為には、パワハラが成り立つ余地があります。

というのも、上司・部下の関係でなくとも、例えば先輩・後輩であったり、業務上の経験が多く一方が教えを乞わなければならないような場合、他方の労働者はその労働者の指示や依頼を断ることが実質的に難しく、上司・部下の関係と構造的に類似しているためです。この点、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」報告によるパワハラの概念(「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」)が本件にも当てはまるでしょう。

被告は、自分が優越的な地位にあることを否定し、その根拠の一つとして、原告が被告の依頼を拒否したことがあったこと、原告が被告をあだ名で呼んだり、ハートマーク付きの携帯メールを送るなどしていたことを主張しました。しかし、判旨は、原告と被告の立場が異なることは明らかであり、優越的な立場にある被告は、原告が表面上親しげな、あるいは強気な対応をしていたように見えたとしても、被告の言動に精神的苦痛を受けている可能性も考慮すべきであったとして、被告の主張を退けました。

つまり、優越的な立場の者は、立場が下の労働者の態度が表面的には親しげであったとしても、場合によっては自分の言動がその労働者にとって精神的苦痛を与えている可能性があることを踏まえ、言動には注意しなければなりません。

本件で被告が原告に対してした言動は、直接的、侮辱的、女性差別的であり、仮に原告を指導・注意する目的に出たものであっても原告の人格的利益を不当に侵害するものとして、許されません。さらに、こうした原告に対する発言は、役員、他の同僚らの面前やメールを同報にする方法によって行われていることから、一層、原告の名誉感情を傷つけているといえます。

 

著者プロフィール

石上 尚弘(いしがみ なおひろ)
石上法律事務所 弁護士
1997年 弁護士登録 石上法律事務所開業