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厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 身体的な攻撃型
  • 精神的な攻撃型
  • パワハラをした人だけではなく会社の責任が認められた裁判事例

【第22回】
パワハラ、暴行等と自殺との間に相当因果関係有りとして高額の損害賠償

事案の概要

金属ほうろう加工業を営む会社(被告)の従業員(死亡当時52歳 男性)が、会社役員2名から日常的な暴行やパワーハラスメント、退職勧奨等を受けたことが原因で自殺したとして、当該従業員の遺族である妻子が会社及び会社役員2名に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、715条、会社法350条)訴訟を提起した事案。

本判決は、会社役員1名によるパワハラ、暴行、退職強要等の不法行為と従業員の死亡との間に相当因果関係があったことを認め、被告会社及び会社役員1名に対し、合計5400万円余りの損害賠償を命じた。

判旨

(1)暴言、暴行、退職勧奨のパワハラについて

本判決は、会社役員のうち1名(代表者)につき、以下の事実があったと認定し、①から④の暴言や暴行は仕事上のミスに対する叱責の粋を超えて死亡した従業員を威迫し、激しい不安に陥れるものであって不法行為に該当する、⑤の退職強要についても不法行為に該当すると判断した。

死亡した従業員が仕事上のミスをした際「てめえ、何やってんだ」「どうしてくれるんだ」「ばかやろう」などと汚い言葉を大声で怒鳴ったり、あわせて同人の頭を叩く、同人を殴る、蹴るなどしたことが複数回あった。

死亡した従業員ほか1名の従業員に対し、同人らがミスによって被告会社に与えた損害を弁償するよう求め、弁償しないのであれば家族に払ってもらうと述べた。

死亡した従業員ほか1名の従業員に対し、「会社を辞めたければ7000万円払え。払わないと辞めさせない。」と述べた。

死亡した従業員の大腿部後面を二回蹴り、全治約12日間を要する両大腿部挫傷の傷害を負わせた。

死亡した従業員に対し、退職願を書くよう強要し、同人は退職届を下書きした。その下書きには「私(死亡した従業員名)は会社に今までにたくさんの物を壊してしまい損害を与えてしまいました。会社に利益を上げるどころか、逆に余分な出費を重ねてしまい迷惑をお掛けした事を深く反省し、一族で誠意をもって返さいします。二ケ月以内に返さいします。」と記載され、「額は一千万~一億」と鉛筆で書かれ、消された跡があった。

(2)自殺とパワハラとの因果関係について

死亡した従業員は、生前「この仕事に向いていないのかな。昔はこんな風じゃなかったのに。」などと口にしたり、日曜の夜になると「明日からまた仕事か。」と言って憂鬱な表情を見せるようになっていたところ、このような発言の時期と、代表者の暴言、暴行の時期とが符合しており、さらに自殺の7日前に④の暴行が行われたこと、自殺3日前に⑤の退職強要があったこと、これらのハラスメントはいずれも死亡した従業員に強い心理的負荷を与えたといえることから、自殺とパワハラとの因果関係が認められた。

(3)損害賠償について

判決は、被告会社及び代表者に対し、死亡した従業員が生きていたならば得られたであろう収入相当額(逸失利益)、慰謝料などの合計5400万円余りの損害賠償を命じた。

コメント

(1)使用者の負う責任

使用者の役員ないし労働者が、他の労働者に対し、不法行為を行った場合、使用者は使用者責任(民法715条)あるいは会社法350条に基づき、行為者と連帯して、被害を受けた労働者の損害を賠償する責任を負います。

(2)不法行為該当性

刑法上の暴行は原則として不法行為に該当するでしょう。

暴言については、労働者がミスをした場合などに、指導目的で多少厳しい言い方になることが必ずしも不法行為になるとは限りません。しかし、判旨のとおり、言葉遣いや態様によっては、「ミスに対する叱責の域を超え」たとして、不法行為となり得ます。

本件で代表者が発した言葉は、前記判旨(1)のような汚い言葉であり、しかも大声であったことから、その言葉を受けた者に対し、相当程度の圧迫感を与えるおそれがあります。

ミスに対する指導を行う際には、大声にならないよう、また過度に厳しい言葉とならないようにするほか、なるべく具体的な内容にする、労働者の名誉・人格をいたずらに傷つけないよう配慮すべきでしょう。

労働者の弁償能力をはるかに超える弁償を迫ったり、家族にも支払を求める、弁償しなければ辞めさせないといった言動は、労働者に著しい不安を与えるものです。そもそも、家族に支払を求めたり、弁償しなければ辞めさせないということは法律上の根拠を欠くものとして、著しく不適切です。

仮に労働者のミスによって使用者に損害が生じた場合であっても、そのすべての損害を労働者に転嫁できるとは限りませんので、弁償を求める場合であっても適正な範囲にとどめ、穏当な方法によるべきです。

最後に、退職勧奨は違法ではありませんが、強要にわたるやり方、すなわち労働者の意に反するやり方は違法と判断される可能性が高いといえます。

本件では、二ケ月以内に一族で損害を賠償する、金額は一千万円から一億円など、その内容からして通常人が自由意思で書く内容とは思われず、強要されたものと判断されました。退職時に労働者に損害賠償を誓約させることは、必ずしも珍しくないですが、記載を求めるとしても当人の自由意思を尊重しなければなりません。

(3)損害賠償

本件のように、パワーハラスメントと自殺との間に因果関係があると判断された場合、慰謝料にとどまらず、自殺した労働者の逸失利益など極めて高額な賠償金額となる場合があります。パワハラによって労働者が自殺にまで至るケースは多くないかもしれませんが、最悪の場合にはこのような事態にまで陥る可能性があることに、使用者としては十分配慮し、相談窓口を設ける、研修を受講・実施するなどハラスメント発生の防止に努めるべきでしょう。

 

著者プロフィール

石上 尚弘(いしがみ なおひろ)
石上法律事務所 弁護士
1997年 弁護士登録 石上法律事務所開業