あかるい職場応援団
厚生労働省

「パワハラ基本情報」裁判例を見てみよう

  • パワハラと認められなかったもの・パワハラを受けた人にも問題が認めれた裁判例

【第21回】
診断書に基づき原告の要望に配慮

事案の概要

県立高校の教諭であった原告が、3年間にわたり、同校校長(以下「被告校長」という。)及び同校教頭(以下「被告教頭」という。)から嫌がらせや暴行を受けたため、精神疾患を発症した上、発症後も疾患に対する配慮がなかったため、疾患が悪化したとして、被告校長及び被告教頭に対しては共同不法行為に基づき、県に対しては国家賠償法に基づき、1100万円の損害賠償を求めて提訴した事案。

一審は、被告校長らに原告の精神疾患に配慮する義務違反があったとして、33万円の支払を県に命じた。

判旨

一審を覆し、原告の請求をすべて棄却した。

なお、最高裁は、平成26年3月6日、上告の棄却及び上告受理申立ての不受理をいずれも決定したため、本控訴審判決は確定した。

(1)嫌がらせ(校長室への呼び出し)について

原告は、被告校長が原告を頻繁に校長室に呼び出したことが嫌がらせに当たると主張した。

これに対し、判旨は、被告校長が原告を校長室に呼び出したのは、原告が指示された書類の提出を行わなかったこと、手続上必要な書類の記載要領を守らず、休暇簿の年月日を様式どおり元号でなく西暦で記載したこと、卒業式等の国歌斉唱時に起立しなかったなどの職務命令違反行為があったことなどから職務上指導をする必要があったためであり、呼出しの態様は直接若しくは電話により口頭で又は書面により校長室に来るよう求めていただけであり、呼出回数も月に数回程度であり、無理強いした様子もないとして、呼び出し行為は、社会通念上許容される態様、回数であり、原告に過度の心理的負担を負わせるものとはいえないと判断した。

(2)暴行について

原告は、被告校長及び被告教頭が原告に対する業務命令違反に基づく処分告知の際に原告の腕をつかむという暴行に及んだと主張した。
これに対し、判旨は、外形的には被告教頭が原告の腕をつかんだことを認めたものの、その行為は原告が処分告知の際に大声で叫んだり、あえて室外に出ようとして出入口方向にいた被告校長及び被告教頭に向かってくるなどして、処分告知を妨害しようとしたため、これを阻止する目的で行ったものであった上、態様も向かってくる原告の腕をつかむという妨害行為を制止する最低限度の有形力の行使にとどまるものであったため、処分告知に伴う正当な職務行為であると判断し、暴行の成立を認めなかった。

(3)その他の嫌がらせについて

その他、原告は、被告校長らが休暇取得の理由を質問したり、朝礼において原告の質問を無視したなどの主張を行ったが、いずれも職務上必要な範囲を超えておらず、原告に対する嫌がらせとは認められないと判断した。

(4)精神疾患への配慮について

原告は、「心因反応・抑うつ状態」と診断され、平成17年12月20日、被告校長に対し、「執拗な呼び出しや面接要求を校長がされることは、現状では治療による改善の阻害となる為即刻中止する必要がある。どうしても校長の職務上の必要で話をしないといけない時は本人の安心出来る立ち会い人に同席を要する」との記載のある診断書(以下「本件診断書」という。)を提出し、本件診断書提出後も被告校長が原告に対し一人で校長室に呼び出したことが精神疾患を悪化させ、安全配慮義務違反に当たると主張した。

しかし、判旨は、本件診断書の記載が、原告が両手首を被告教頭に把持され、抑えられる等の暴行があったという誤った事実を前提として診断されたものであって信用性に疑問が残る上、後日、原告が他の医師に対して、校長室での呼出しに同席者が必要との記載のある診断書を求めたところ、当該医師はこれを不可であると拒んだこと、被告校長は、面談に際し、医師の同席や事務長などの立ち会い、場所として校長室以外の事務室や教務室を提案していること、呼び出し回数についても、校務の遂行上必要が生じた場合に限って1か月に数回程度であり、原告が断ればそのまま引き下がっていることから、原告の精神疾患に対し相当程度の配慮を行っており、原告の精神疾患を悪化させたというような安全配慮義務違反はないと判断した。

さらに、原告は被告校長らだけでなく、県教委にも安全配慮義務違反があったと主張したが、これについても県教委は原告の疾患が悪化しないよう相当の配慮を尽くしていたとして、安全配慮義務違反を否定した。

解説

一般に、使用者には、労働者が労務を提供するに際し、労働者の生命・健康を職場における危険から保護すべき安全配慮義務があるとされ(最高裁昭和59年4月10日判決など)、この理は公務員であっても当てはまります(最高裁昭和50年2月25日判決)。安全配慮義務は、当初、判例法理によって確立された法理ですが、現在は、労働契約法第5条に成文法化されています。

したがって、原告が診断書という客観的な証拠を提出した上で疾患を訴えた以上、被告校長らは少なくとも原告の疾患がこれ以上悪化しないよう配慮する義務を負うことになります。

被告校長は、本件診断書提出後、原告との面談の際、本件診断書を書いた医師の同席を許可したり、事務長という被告ら以外の人間の同席を認める、場所も事務室や教務室などのオープンスペースを提案するという配慮をしていたほか、原告を面談のために呼び出した回数は1か月に数回程度、原告が断れば引き下がるという穏当な態様をとっていたため、原告の疾患について相当程度の配慮をしていたと認定されました。

本件診断書については、上記のとおり、記載内容の信用性に疑問があることが後日判決内で示されましたが、診断書が提出された場合には、産業医等の助言、指導等を得ながら、また、必要に応じ、労働者の同意を得た上で主治医と産業医との連携を図るなど、労働者の健康管理に関し相当程度の配慮をすべきでしょう。

原告は、さらに県教委の対応についても、原告が受けた暴行等についての調査を怠ったことなどから安全配慮義務違反を主張していました。

しかし、県教委は原告の申入れを受けて調査を開始し、まず当事者である被告校長らから報告を受けた後、原告本人に対しても調査を実施しようと試みており、実際の調査は原告が調査に様々な条件を付したために実現しなかったものの、その努力をしていたと認定されました。

また、県教委は、原告から診断書が提出された後、被告校長らに対し、面談の際に医師を立ち会わせることを認めるとの方針を伝えたり、面談の方法についても校長室への呼出しを控える、連絡は事務長を通すことなどを指導しており、原告の疾患に対して相当な配慮をしていると認定しました。

コメント

本件は、原告が疾患を訴えた後、使用者が合理的な範囲内で原告の要望も取り入れた対応をとったため、安全配慮義務を尽くしていたと認められた事案です。

使用者は、労働者からパワーハラスメントやこれに伴う体調不良など一定の訴えがあった場合には、事実関係の確認はもとより、産業医等の助言、指導等を得ながら、当該労働者の職場環境や身体・生命の状態がこれ以上悪化することのないよう、職場環境の改善や労働者の健康の確保に十分に配慮すべきでしょう。

具体的な対応としては職場内の業務配分や勤務時間(シフト)の見直し、産業医や労務管理担当者による労働者への健康ヒアリングの実施といった対応が考えられます。

職場における働き方について、労使で十分話し合って、労働時間や業務上の負荷によりストレスが集中することのないよう配慮することは、パワーハラスメントやこれに伴う体調不良をなくすことにつながるでしょう。

 

著者プロフィール

石上 尚弘(いしがみ なおひろ)
石上法律事務所 弁護士
1997年 弁護士登録 石上法律事務所開業