あかるい職場応援団
厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • パワハラと認められなかったもの・パワハラを受けた人にも問題が認めれた裁判例

【第20回】
差別的取扱いを受けた等の主張が認められなかった事案

事案の概要

被告会社の元従業員である原告が、被告会社の従業員や取締役等が原告に対し、人格を否定する言動、原告のみを対象とする不当な差別的取扱い、その他の嫌がらせ行為をし、また、違法な退職勧奨及び不当な復職拒否をし、原告に精神的損害を被らせたとして、不法行為責任等に基づき慰謝料等を請求した事案。

本判決は、原告の勤務態度等に照らせば、相当な指導の範囲を逸脱する行為があったとは認められないとして、原告主張の行為のすべてについて不法行為の成立を認めなかった。

判旨

(1) 業務命令及び業務態度改善命令

原告が、上司及び先輩から指導を受けていたにもかかわらず、上司に対して営業活動の報告をせず、上司の確認を得ず退勤し、社会人としてのマナーを守らないなど、その勤務態度に改善すべき点があったことから、被告会社のd部長が原告に対し、原告自身に勤務態度について改善すべき点を認識させる趣旨で、まず業務命令を出し、業務命令発出から1週間が経過しないうちに続けて業務態度改善命令を発出し、いずれにも原告の署名を求めた。原告は、その記載事項の一部に心当たりがなく、これは原告のみに対して行われた不当な差別的取扱いであると主張したが、本判決は、上記の事実に照らせば、これら命令の中に一部原告自身に心当たりのないものが含まれていたとしても、原告に対する「相当な」指導の範囲を逸脱しておらず、不当な差別的取扱いその他の嫌がらせ行為であると認めることはできないとして、不法行為の成立を否定した。

(2)退職勧奨行為

被告会社のg所長は原告に対し、原告の勤務態度によって他の従業員の執務に支障が出ていることを指摘し、退職を勧奨し、原告が退職しないと述べた後にも何度か退職を勧奨した。

また、被告会社のf取締役は、原告に対し、入社以来、注意・指導を重ね、原告と面談する機会を持ったものの、原告の勤務態度が改まらないことから、原告に対し「貴殿は、ご自身で選んだ会社において、現在に至るまで本当に給与に値する業務を遂行しているか、ご自分で正当な評価を行って頂きたい。」「3年間に亘り最善を尽くしている会社としてはこれ以上環境を変えることも不可能です。貴殿に対して今後の進路に対する考えおよび生き方を伺いたく、別紙におきまして、真摯に考え、ご意見をお書き下さい。」と記載された書面を送付した。

原告は、これらについて、被告会社従業員ないし取締役から度々違法な退職強要又は退職勧奨を受けたと主張したが、本判決は、前者について退職を勧奨しているがあくまで原告自身によって決定すべき事柄であるとの姿勢で臨んでいることが認められ、その際、脅迫行為及び原告の人格を否定する言動に及んだとも認められないことから、違法な退職強要に当たらないとして、不法行為の成立を否定した。

後者については、あくまで原告に対し真摯に自己評価をして、これまでの勤務態度について考え直すよう求めたものというべきであり、これが退職勧奨の趣旨を含むものであったとしても、違法な退職強要といえないと判断した。

(3)身元保証人に対する文書送付

被告会社は、原告の身元保証人に対し、原告の勤務態度に問題があり、原告との話し合いによっても改善されておらず、身元保証人からも原告を指導するよう求める文書を送付した。原告は、会社のこの行為が原告の知らないうちに原告の親族等に圧力をかけ、原告を不安にさせ、違法に退職を強要したと主張した。しかし、本判決は、原告の勤務態度は度重なる指導によっても改まらず、g所長から反省文を書くよう求められた際には、その用紙を丸めて投げ捨てるなどしており、そのような状況の下では、被告会社が身元保証人に対して上記文書を送付するという措置をとったとしても「何ら非難されるいわれはない」と違法性を否定した。

(4)復職判定

病気休職中であった原告が、原告の主治医による復職可能との診断書を被告会社に提出し、復職を求めたところ、被告会社は、復職には主治医のみならず産業医の判定も必要として復職を認めなかった。原告はこれを違法な復職拒否と主張したが、本判決は、休職事由の消滅を判断する方法については、就業規則に特段の定めがない場合、合理的な方法である限り、その選択は会社に委ねられていると解するのが相当であるとして、原告が信頼する主治医と被告会社が信頼する産業医双方の診断を求めたことは、何ら不合理なことではないとして、違法性を否定した。

コメント

(1)業務命令及び業務態度改善命令について

被告会社は1週間のうちに2度も原告に対し、業務命令等を出しており、その中には原告自身に心当たりのないものも含まれていたのですが、原告の業務態度には、指導されたことを守らない、社会人としてのマナーを守らないなど改善すべき点があったことから、指導として相当であると判断しました。業務命令等が指導目的に出たものであり、かつ、その態様も不当でないとして、不法行為の成立が否定されたものといえます。

(2)退職勧奨について

一般に、退職勧奨は、それ自体が違法でなく、その目的や方法が相当でない場合に限って違法となり得ます。本事案では、原告が退職を拒否している中で再度退職勧奨が行われていますが、その態様があくまで強制にわたらず、原告の自己決定権を侵害しないものであることから、違法性が否定されました。とはいえ、その回数や態様によっては退職勧奨行為が違法となるかもしれません。

したがって、使用者としては、特に労働者がいったん退職を拒否した後の再度の勧奨について、過剰にならないよう十分留意すべきでしょう。

(3)身元保証人への文書送付について

使用者は、勤務態度に問題のある労働者がいた場合、まずは自ら当該労働者に注意・指導を与えるべきであって、安易に第三者にこれを求めることは相当でないといえます。もっとも、本事案では、被告会社による度重なる注意・指導にもかかわらず原告の勤務態度が改まらなかったという点を考慮し、原告の親族に対して指導を求めたことには何ら問題がなかったと判断されました。

(4)復職判定について

実務上よく問題となるところですが、本判決は休職事由の消滅を判断する方法について、就業規則に特段の定めがない場合には、合理的な方法による限り使用者の決定権を尊重したものとして注目に値するでしょう。また、その合理性についても、労働者側の主治医及び使用者側の産業医双方が復職可能と判断した場合に限り復職を認めるとする方法は「何ら不合理なことではな」いと評価した点も参考になります。

 

著者プロフィール

石上 尚弘(いしがみ なおひろ)
石上法律事務所 弁護士
1997年 弁護士登録 石上法律事務所開業