あかるい職場応援団
厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型
  • 個の侵害型
  • パワハラをした人だけではなく会社の責任が認められた裁判事例

【第15回】
自然退職扱い社員からのパワハラを理由とした損害賠償等請求

事案の概要

上司(被告)からパワーハラスメントを受けたことが原因で精神疾患を発症、被告会社を休職し、後に自然退職扱いとなったとして、従業員(原告)が、不法行為(パワハラ)に基づく損害賠償及び現在も従業員の地位にあると主張して、自然退職後の賃金を求めて提訴した事案

判旨

原審はパワハラが不法行為になる要件を規範化し、一定の行為については不法行為にあたらないと判断したが、控訴審の判旨は、そのような規範を用いることなく個別具体的に下記のとおり不法行為に該当すると判断した。原審が不法行為に当たらないと判断した行為についても一部不法行為の成立を認め、不法行為に基づく慰謝料として、原審認定の70万円を増額し、150万円の支払いを被告らに命じた。

もっとも、パワハラ行為と精神疾患の因果関係については原審同様認めず、また被告会社が原告に休職を命じたこと及びその後の自然退職扱いに不当な点はないとして、自然退職後の賃金請求を退けた。

[不法行為にあたると認定されたパワハラ行為]

(1)飲酒強要

業務終了後の反省会で、被告上司が「酒は飲めない。」と断った原告に対し、「少しなら大丈夫だろう。」「俺の酒は飲めないのか。」などと執拗に飲酒を要求し、これに応じた原告が嘔吐したが、その後も「酒は吐けば飲めるんだ。」として飲酒を強要したことが単なる迷惑行為にとどまらず不法行為にあたると判断した。

(2)運転強要

前日の飲酒で体調が悪いと訴えた原告に対し、被告上司が「もう少しで着くから大丈夫だ。」として運転を強要したことが極めて危険で、不法行為にあたると判断した。

(3)精神的苦痛を与える内容の留守電・メール

帰社命令に反し直帰した原告に対し、午後11時頃、「僕は一度も入学式や卒業式に出たことはありません。」とメールし、さらにその後2度にわたって原告の携帯電話に電話をかけ、「私、本当に怒りました。明日、本部長のところへ、私、辞表を出しますんで、本当にこういうのはあり得ないですよ。」と怒りを露わにした留守電を残したことが、いずれもその内容や語調、深夜であったことからして原告に精神的苦痛を与えることを主眼としたものとして、不法行為にあたると判断した。

(4)休暇中の携帯電話への留守電

被告上司が、原告が必要なミーティングを行わなかったことに激怒し、夏季休暇中の原告の携帯電話へ深夜電話し、「ぶっ殺すぞ。」などの留守電を残したことが不法行為にあたると判断した。

コメント

(1)不法行為が認定された行為

上記の行為はいずれも悪質かつ原告の肉体・精神に危険を及ぼしかねない行為といえ、不法行為と認定されかねないでしょう。

さらに、業務時間外の行為ではありますが、業務と関連していることから、被告会社の使用者責任が認められています。

(2)パワハラと精神疾患の因果関係

パワハラを受けた従業員が、精神疾患を発症したとして会社を訴える例も見られますが、パワハラ行為と精神疾患発症が先後関係にあったとしても、それだけで損害賠償責任が認められるわけではありません。

判旨は、仕事上のミスなどパワハラ以外にも原告に精神的負荷のかかる状況があったことから、パワハラが精神疾患の原因である(=因果関係がある)とは認めませんでした。

(3)慰謝料金額の算定

判旨は、パワハラによる慰謝料算定の際に、被告上司が原告に謝罪していることを被告らに有利に、原告がパワハラを訴えた後も被告会社が原告と被告上司を隣席のままにさせたことを被告らに不利な事情として斟酌しました。

使用者としては、パワハラ行為が判明した後は、二次的被害を生じさせないよう、当事者を物理的に離すなど適切な対応を講じることも必要でしょう。

(4)休職命令発令及び自然退職扱い

一般に、業務外の傷病により長期欠勤する従業員につき、休職制度を設け、一定の休職期間内に復職することができない場合には自然退職扱いとするといった就業規則の定めが見られます。

本件では、原告は精神疾患により自宅療養が必要である旨の診断書を提出し、被告会社がこれに応じ、90日間の休職命令を発令し、休職期間満了3週間前に復職する場合の手続き等を案内しました。

原告は被告会社からの復職案内に対し、自分は労災認定を求めるつもりである旨(業務外の傷病ではないこと)を被告会社に連絡したものの、復職の手続自体は行いませんでした。

判旨は、原告の精神疾患とパワハラの因果関係がないこと、原告が休職命令に異議を唱えなかったこと、復職案内を受けても一向に被告会社に復職の申し出や相談等をしなかったことを理由として、休職命令及びその後の自然退職扱いは有効であると判断しました。

使用者としては、従業員がパワハラによる精神疾患を訴えて欠勤する場合には、就業規則に則り、適切に休職命令を発令し、復職の意思の確認や手続の説明をしておく必要があるでしょう。

 

著者プロフィール

石上 尚弘(いしがみ なおひろ)
石上法律事務所 弁護士
1997年 弁護士登録 石上法律事務所開業