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厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型
  • パワハラをした人だけではなく会社の責任が認められた裁判事例

【第13回】
違法性の判断基準

事案の概要

21歳の海上自衛隊員が上官からの継続的な誹謗によりうつ病に罹患し、自殺したとして、同隊員の両親が国に対し慰謝料の支払い等を求めた事案

判旨

まず、(1)他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は原則として違法となるが、その違法性の判断に際しては、平均的な心理的耐性を有する者を基準として客観的に判断されるべきこと、(2)使用者は、労働者に対し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うこと(安全配慮義務)をそれぞれ一般論として示した。

これらを本件にあてはめ、上官(直属の上官)が、自殺した自衛隊員(以下「被害者」という。)に対し、指導に際して継続的に「お前は三曹だろ。三曹らしい仕事をしろよ。」「お前は覚えが悪いな。」「バカかお前は。三曹失格だ。」などの言動で半ば誹謗しており、この行為は被害者に心理的負荷を過度に蓄積させる行為で、指導目的であっても相当性を著しく欠いており、上官には少なくとも過失があるとして違法と判断した。さらに、使用者である国は、被害者の心理的負荷が過度に蓄積しないよう注意する義務がありながら、国の履行補助者である上官がこれを怠ったとして、国の安全配慮義務違反を認め、一審の判決を覆し、被害者の両親に対し合計350万円の慰謝料を支払うよう命じた。

解説

本件は、海上自衛隊員が護衛艦の中で勤務中に首吊り自殺をしたとして、広く世間の耳目を集めました。被害者の両親は、被害者が死亡したことによる慰謝料の支払いのほか、海上自衛隊が発表した事件の調査結果の内容が不当であることを理由とした名誉毀損に基づく慰謝料の支払い、謝罪等を求めましたが、死亡による慰謝料請求のみが認められました。

本判決は、このような上官の言動の違法性を判断するに当たっては、被害者本人の心理的耐性を基準とするのではなく、一般人が有する心理的耐性を基準として、心理的負荷を過度に蓄積させるかどうか判断すべきとしました。

したがって、通常人であれば過度に心理的負担を負うとはいえないような言動であれば、仮にこれを受けた本人が強いストレスを感じたとしても、違法とは評価されないこととなります。

もっとも、本判決は、上記基準の例外として、行為者が、その言動を受ける者の心理的耐性が平均的な者の場合と比較して低いことを知り、又は知り得た場合には、当該心理的耐性の低い者を基準として、過度に心理的負荷が蓄積したかどうかで違法性を判断する余地があると言及しています。 したがって、仮に通常そのような言動では心理的負荷が過度に蓄積することはないと考えられるような言動であっても、これを受ける労働者が特別にストレスに弱い事情があり、これを行為者が知っているか、又は知り得たにもかかわらず行った場合には、違法と判断される可能性があります。

本件では、被害者の心理的耐性は、心理適性検査の結果、平均的なレベルであったと認定されており、直属の上官の言動は、一般的な心理的耐性を持った者にとっても過度に心理的負荷を蓄積させる行為であるとして、違法と評価されました。

なお、この直属の上官の言動は、被害者を指導する際に行われたものであり、いじめ目的だったとまでは認定されませんでした。しかし、仮に指導目的であっても、被害者に対し、階級に関する心理的負荷を与え、下級の者や後輩に対する劣等感を不必要に刺激する内容で、相当性を著しく欠くとして、正当性がなく、違法になると判断されました。

さらに、上官は、被害者が心理的負荷を蓄積させていたことを当然認識しうべきであったので、少なくとも過失があると判断しました。

したがって、一般人を基準として、通常は心理的負荷を過度に蓄積させるような言動をした場合、仮に指導の一環として行われたものであっても違法と判断され、そのような言動を受けた者が過度に心理的負担を蓄積させていたとは知らなかった、という主張が認められることは困難でしょう。

コメント

安全配慮義務については、被害者の上官は、使用者である国が負っている安全配慮義務の履行補助者であるとして同様の義務を負っており、上官が安全配慮義務に反した以上、使用者も安全配慮義務違反があると判断されました。

ちなみに、本件は公務員の勤務関係ですが、民間企業の労働関係についても同様に安全配慮義務が認められることは判例により確立された法理でした。平成20年3月から施行されている労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)は、正にこの判例法理を明文化した規定です。

本件は、上官の半ば誹謗ともいえる言動が被害者の自殺という結果をもたらし、自殺と上官の言動の間には因果関係があると判断され、国に対し、350万円の支払いが命じられました。

本件のように、上司の言動で部下が自殺に追い込まれるケースもあり、その場合には使用者は多額の損害賠償を負う可能性があります。本件の原告は、被害者の相続人でなかったため、慰謝料以外の損害賠償請求は認められていません。しかし、相続人との関係では、より高額の損害賠償が認められることもあり得るでしょう。

 

著者プロフィール

石上 尚弘(いしがみ なおひろ)
石上法律事務所 弁護士
1997年 弁護士登録 石上法律事務所開業