あかるい職場応援団
厚生労働省

パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

  • 身体的な攻撃型
  • 個の侵害型

【第11回】
明示的に拒否の態度を示していなくとも拒否することは非常に困難だったとして不法行為と判断された事案

事案の概要

化粧品販売会社の社員であった原告(60代女性)が、研修会において易者姿のコスチューム等を着用させられたことなどから精神的苦痛を被ったとして上司ら及び会社に対し慰謝料の支払いを求めた事案

判旨

被告会社で定例的に開催され、参加が義務付けられている研修会において、特定の商品販売目標を達成できなかった原告ほかの美容部員に対し、被告である上司らが、罰ゲームとして箱に入った数種のコスチュームをじゃんけんによって原告らに順番に選択させた上で、原告に対しては原告が(事情を知らないまま)選択した易者姿のコスチューム及びうさぎの耳形のカチューシャを着用するよう求め、その際上司の一人は同コスチュームを早く着用するよう促し、上司らから原告に同コスチューム着用が嫌ならやめてもいいといった趣旨の発言はされなかったこと、原告には罰ゲームの内容が同コスチュームを着用することであると事前に告知されていなかったこと、上司らは、原告が同コスチュームを着用したまま発表する様子を原告に意思を確認することなく撮影したこと、後日別の研修会においてコスチュームを着用したまま発表する原告の姿が映し出されたスライドを原告の同意なく投影したこと、原告は撮影・投影のいずれの時点においてもこれらを拒否する明確な態度は見せていなかったことなどをそれぞれ認定した上で、上司ら及び会社に対し、原告へ慰謝料として金20万円を払うよう命じた(請求額は290万円)。

判旨は、参加が義務付けられている研修会において、上司らがコスチューム着用の罰ゲームを予定していながら罰ゲーム対象者である原告に意思を確認せず、原告がコスチューム着用について予想したり覚悟したりする機会のないまま突如コスチューム着用を求めたのであって、仮にコスチューム着用が強制ではなかったとしても、原告が着用を拒否することは非常に困難であったこと、さらに上司らは原告の了解なくコスチューム姿を撮影及び投影しており、上司らの行為は原告に心理的負荷を過度に負わせたと断じた。

一方、被告らは、コスチューム着用は遊び心、茶目っ気に溢れた盛り上げ策、レクリエーションを目的としていると主張し、また原告は研修会においてコスチューム着用や撮影について不満を述べていなかったと主張した。これにつき、判旨はレクリエーションという目的自体は正当と判断したが、その目的を達成する手段として被告らがとった手段は相当でない、また研修会の場面の様子からのみで原告が精神的苦痛を被っていないとみることは相当でないとして、被告らの主張を退けた。

解説

本件は、上司及び会社がほんの遊び心、余興として実施した罰ゲームが従業員に対する不法行為になると判断された事例です。

被告会社では、原告を含む個々の美容部員に化粧品の販売目標を定め、目標を達成できなかった美容部員に研修会で発表を行わせることとしており、研修会を盛り上げる策として、発表中特定のコスチュームを着用することを求めました。原告が着用したコスチュームは肌の露出を伴わないものですが、易者姿にうさぎの耳形カチューシャというもので、当然に研修会それ自体や発表の内容とは一切関係のないものでした。

上記裁判例は、原告がコスチュームを着用したのは任意であった可能性もあることを示唆した上で、仮に任意であったとしても上司らの行為は違法になると判断しました。

一般的に、研修会で他の従業員や上司の目の前で奇抜なコスチュームを着用することは、業務内容と全く関係がないばかりでなく、相当程度心理的抵抗が予想される行為といえます。このような行為を、心の準備のないまま突然に上司から求められれば、一般の労働者の立場からは断りたくともなかなか真意を言い出せないのが通常です。

さらに、上司らはコスチューム姿で発表する原告らを撮影し、後日別の研修会でそのスライドを投影し、コスチュームを着用した原告らの姿を他の従業員らにも見せました。

こうした行為はコスチューム着用を求めたこととあいまってさらに原告に心理的負担を負わせる行為といえるでしょう。

このようなことから、原告が明確に拒否の態度を示さなかったとしても、上司らの行為には過失があり、違法と判断されました。

コメント

場の雰囲気を和ませる、コミュニケーションを円滑にするなど、レクリエーション、余興自体には正当な目的があるといえます。

しかし、上記裁判例のように、労働者の真意が明確でないまま職務と無関係に心理的抵抗の大きいと考えられる方法でこれを行うことは、仮に労働者がその時点では不満そうな様子を見せていなくとも、ハラスメント、違法行為であると判断されかねません。

よって、当該労働者が真に納得しているのかどうか、断り辛い状況に陥っていないかどうか、十分配慮が必要でしょう。

 

著者プロフィール

石上 尚弘(いしがみ なおひろ)
石上法律事務所 弁護士
1997年 弁護士登録 石上法律事務所開業